朝日新聞デジタルのアンケート
朝日新聞デジタルのアンケートでは「屋内も路上も禁煙」を求める声が過半数になっています。屋内の受動喫煙防止策は、海外から大きく遅れているという指摘も多くみられます。一方、屋内防止策をいまのまま海外並みにすることは、社会の実態の軽視では、という専門家からの声も届きました。どういうことでしょうか。
【アンケート】受動喫煙
アンケートでは、大半が「屋内完全禁煙」を選びました。まずはその人たちの意見の一部を紹介します。
●「たばこの値段をもっと上げるべき。喫煙者の弟いわく1箱1000円くらいになったらやめてもよいかなと言っています」(京都府・60代女性・今は吸っていない)
●「『喫煙は人間の生活の中にないこと』を目標にしたいが、現実に既に依存症患者さんが多数存在するので、一定の条件の公衆煙所は、必要悪として一時的に設けるのが政策として良いように思う。家庭内受動喫煙を減らす(法規を定めた場合の喫煙者の一時的逃げ場となる)ためにも。また、喫煙の自由が制限されることで、喫煙者が喫煙行為を見直す・考え直すためにも良い策だろう」(千葉県・70代男性・今は吸っていない)
●「煙を吸うと息が苦しくなるため、飲食店は絶対に完全禁煙でないと入りません。入りたくても入れない店(例えば喫煙可の居酒屋や老舗〈しにせ〉喫茶店)がたくさんあります。私のような潜在的な顧客がどれくらいいるのか調査してみてはいかがでしょうか」(大阪府・20代女性・吸ったことはない)
●「医師です。たばこは依存性のある有害物質であり、規制されるべきものです。マナーや文化の問題ではありません。有害物質を『吸う権利』というのもおかしな話で、論点がずれています。日本では政府が徴税手段として国が独占販売してきた歴史があり、既得権益の構造が出来上がってしまっていることがたばこ対策の遅れにつながっています。しかし、国民の健康か、一部の人の利益か、どちらを選択するか議論の余地はないでしょう。分煙では健康被害は防げないことが明らかになっていますので、屋内禁煙は必須です」(沖縄県・60代男性・吸ったことはない)
●「屋内での喫煙を容認するのであれば、非喫煙者がその場所に立ち入らなくて済むよう、法定の表示(設置場所、看板や文字の大きさを規定する)が必要だ。また喫煙を許す場所では、未成年者や非喫煙者の就労を罰則付きで禁止すべき」(兵庫県・50代男性・吸ったことはない)
●「完全密閉で二重ドアの喫煙所を作って、換気は空気清浄機できれいな空気にしてから高い煙突から排気するようにしてはどうでしょうか。有料の会員制の喫煙所をたばこ税で作ればいい」(東京都・50代男性・吸ったことはない)
●「『喫煙』=『自分が喫煙する権利』+『非喫煙者にも煙を吸わせる権利』か? 今の議論は飲食店とか分煙とか、あまりに小さな議論に終始している。全ての屋内はもちろん、屋外であっても、路上や公園は言うまでもなく『人がいる可能性のある場所から50m以内の私有地を含む屋外』とすべき」(京都府・60代男性・吸ったことはない)
●「喫煙ボックスは有料化すべき。クレジットカード決済にすれば年齢確認もできる。生体認証も行うべきだ。違反者に対しては、行政上のペナルティーである過料や、刑事上の科料では生ぬるい。懲役、罰金が妥当である」(静岡県・40代男性・吸ったことはない)
■「店の分煙や表示の徹底を」
屋内について、分煙や表示の徹底を選んだ人たちの意見の一部です。
●「『喫煙者専用店――中で喫煙しない人(もちろん未成年も)は入店不可――』は喫煙営業を認めてもよい。ただし、1人経営者または雇用は喫煙者のみ・店外への煙や臭い漏れは一切ないこと・喫煙営業税(課徴金)を自治体に納めること・店頭にそのような店であることを1メートル四方の掲示をすること、そして、それらにわずかでも違反した場合(臭い漏れの通報があった場合など)は、罰金と営業停止処分になること、を条件の上で」(栃木県・50代男性・吸ったことはない)
●「喫煙は麻薬と変わらないと感じており、将来的には消滅する運命である。一方で朝日新聞の同種の記事は非喫煙者の立場に偏っている点が気がかりである。示されるデータは危険性を示す傾向は分かるものの、我が身がどれほどの危険性なのか、寿命が短くなるのか、判定できるデータにはなっていない。警視庁が示す交通事故による死亡者数関連のデータと同様で『分母が無い』。読者を一つの答えに導くような記事にはいつも恐怖を覚える。今回のアンケート形式の記事にも恣意(しい)的なものを感じた」(山形県・40代男性・ヘビースモーカー)
●「公共交通機関では携帯電話を控えるのが好ましい、というような、厳密でなくてもある程度の社会的な合意形成ができればと思います。そのためには、分かりやすい何カ条かの統一ルールが公示されるのが良いのではないでしょうか。禁煙の電車の中でたばこを吸う人はいませんが、改札を出てすぐにたばこをくわえる人は少なくありません。そのうしろを歩く格好になると、しばらく煙を我慢し続けることになります。周囲に他の人がいないことを確認してからたばこに火をつける気遣いも、ルールに加えて欲しいですね」(滋賀県・60代男性・吸ったことはない)
●「ただやみくもにすべてを『禁止』でくくってしまうのではなく、嫌煙家が『喫煙不可』の場所を選べるように、喫煙者にも選択の余地を講じてもらいたいと思います。ただ、歩きたばこの問題は受動喫煙だけではなく、他の歩行者(特に子供)がやけどをしたり、目や鼻に灰が入って呼吸機能以外の健康被害に及ぶこともあると思うので、その辺りについては徹底しても良いかと考えています」(岐阜県・40代女性・ヘビースモーカー)
●「私はたばこが苦手であるし、なぜ飲食店でたばこを吸わなければならないのか理解できないので、基本的には全ての飲食店を禁煙にして欲しいとは思う。だが、『喫煙可』と表示された店には近づかなければ済むことなので、表示の義務化で十分であると考える」(岡山県・40代男性・吸ったことはない)
●「屋内よりも路上での喫煙を取り締まってほしい。路上喫煙で受動喫煙の被害に遭わない日がない、無法地帯すぎる。路上こそ公共(赤ちゃんからお年寄りまで通る)の場所、吸わない人に吸わせないでほしい。店内はまだ路上と違って選べるから避けようがあるので、完全禁煙の店にしか行かない。ただ、家族連れなどが利用する店は広さと関係なく店内禁煙にするべきだと思います」(東京都・40代女性・今は吸っていない)
■路上規制とのバランスは
「厚生労働省の『健康増進法』改正検討の状況は、報道等を通じて知る限り、社会実態を軽視しているように思えて仕方がありません」。昨年、神奈川県の受動喫煙防止条例の見直し検討部会長を務めた東海大の玉巻弘光名誉教授(行政法)からそんな声が届きました。
日本の屋内禁煙法の水準を海外のそれに合わせるべきだ、という主張は、屋外の喫煙規制の厳しさが日本と海外では決定的に異なることなどを無視した論では、と玉巻さんは指摘します。「海外では屋外喫煙の規制は日本より緩やかだが、日本は都市部や繁華街では条例による路上禁煙が少なくない。例えば、区内全域が路上禁煙の東京都千代田区で屋内まで禁煙が徹底されたら、喫煙できる場所をどのように確保すればよいのでしょう。実態を考慮せずに論議しているように思う」
千代田区に取材しました。2002年に日本初の路上禁煙条例が施行されました。指導員ら22人が交代で巡回、歩きたばこだけでなく、立ち止まって吸っていても公道上なら過料(現在2千円)をとります。
屋内喫煙所づくりにも力を入れています。現在、約40カ所の喫煙所のうち、22カ所は民間ビルの1階にあります。区の助成で空き店舗に排煙設備をつけて転用したものです。以前は屋外が大半でしたが、オフィスでの禁煙が進み、昼休みや帰宅時に公園の灰皿に集まる喫煙者の煙への苦情が増えました。そこで14年から助成を充実させ、空き店舗の喫煙所を増やしました。コンビニやたばこ屋には灰皿の撤去を働きかけています。一方、助成制度で店内に喫煙所を設けるコンビニも増えています。
「今後さらに屋内の喫煙所を増やし、屋外は減らしたい」と担当者。
隣の港区も03年の「みなとタバコルール」を14年に条例化し、指定喫煙場所を除いて屋外の路上や公園など公共の場での喫煙を禁止。さらに、私有地で喫煙するときも、屋外の公共の場所にいる人にたばこの煙を吸わせないよう、配慮することを求めています。罰則は設けていません。喫煙場所をつくってもらうなど、相談にも応じるそうです。
先月末時点の指定喫煙所は49カ所で、うち10カ所は屋内です。屋内は助成を利用したコンビニ店が多く、掲載の了解を得た民間喫煙所33カ所も一緒に地図上に表示、指導員が誘導したり、区のホームページで紹介したりしています。
区内在住・在勤1千人のインターネット調査で、67%が指定喫煙所での喫煙ルールは「守られている」と回答。指定喫煙場所の設置について「喫煙奨励につながりかねず反対」22%△「迷惑なのでなくすべきだ」9%と厳しい意見が多く、担当者は「受動喫煙を防ぐには、場所を決めてすみ分けることが大切だと、理解を求めていきたい」と言います。
厚労省によると、今年2月末時点で全国1741市区町村のうち、14%にあたる243自治体で路上喫煙を規制する条例がありました。規制(重複あり)別では「歩きたばこ禁止」129(53%)△「携帯灰皿があれば喫煙可」96(40%)△灰皿がある場所、または私有地での喫煙可(行政が喫煙場所を指定する自治体を含む)162(67%)だったそうです。
厚労省は「今後、市区町村に趣旨や内容を説明し、国の対策と調和がとれた対応の検討を依頼したい」としています。千代田区の担当者は「法律が改正されれば何らかの影響が出るかも知れないが、内容が固まらないと対策が講じられない」と言います。(錦光山雅子、寺崎省子)
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