覚醒剤を保管していたトランクルームが入居するビル=大阪市(画像の一部を加工しています)
「麻薬取締官のおとり捜査に協力しただけ」と訴え、無罪を主張する覚醒剤事件の男性被告(55)に対し、大阪地裁(村越一浩裁判長)は12日、判決を言い渡す。公判では約200通にも上るメールや31回の面会記録など両者の関係性が明らかになった。捜査は一線を越えていたのか――。司法判断が注目される。
被告は2015年4月21日、覚醒剤所持容疑で大阪府警に現行犯逮捕された。同年7月に始まった公判では所持を認めたうえ、「麻薬取締官から『エス(スパイ)になってくれ』と持ちかけられ、密売人と接触した。違法薬物を手に入れたり使ったりしても大丈夫だと聞かされていた」と主張した。
公判では、14年7月に被告が厚生労働省近畿厚生局麻薬取締部を訪れ、取締官(43)に密売人に関する情報を提供したことが明らかになった。それ以降、2人は喫茶店で面会し、電話やメールでのやりとりが続いた。被告の携帯電話の履歴からは逮捕までの10カ月間で、少なくとも通話は7時間以上、メールは約200通あったことが判明。この間、被告は密売人から違法薬物のサンプルを受け取り、取締官に渡していた。
この関係について、公判で双方とも争いはない。
一方、府警は独自に「(被告は)大阪で一番大物の密売人」という情報を入手。麻薬取締部と何らかの連絡を取っていることは把握していたが、取締官との具体的なやり取りは関知せず、逮捕したと説明している。
おとり捜査は、捜査機関や協力者が身分を隠して犯罪を行うように働きかけ、動いたところで摘発する手法。直接的な被害者がいない薬物や銃器の密売事件などで採用されているが、犯罪の意思がない相手に密売を促す「犯意誘発型」は違法とされる。
弁護側は「昨夜頼まれた件用意してます」(被告)「ご相談がありまして」(取締官)などのメールや被告の証言を踏まえ、「取締官に頼まれて違法薬物の取引に関わっていただけ」と主張。違法なおとり捜査に基づく起訴は取り消されるべきだ▽そもそも違法性の認識がなく無罪――と訴えた。
これに対し、検察側は「取締官は一方的な情報提供を受けただけ。違法薬物の入手を指示したことも、所持や使用を黙認したこともない」と述べ、おとり捜査を否定して懲役13年罰金300万円を求刑した。
また、公判には麻薬取締官が出廷し、被告は情報提供者だが、おとり捜査を指示したことはないと明言。「覚醒剤の所持に関する情報があれば捜査対象になっていたはずです」と述べた。