打撃練習に打ち込む藤林遍統路君=南区
毎週木曜、高校野球・塔南(京都)の藤林遍統路(ペトロ)主将(3年)は午後6時半ごろに練習を切り上げ、1人で学校を後にする。父イザヤさん(53)が主管牧師を務めるプロテスタント系教会「京都中央チャペル」の祈禱(きとう)会に参加するためだ。
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聖書を読み、イザヤさんが教えを説き、参加者全員で祈りを捧げる。一家は厳格なキリスト教信者。礼拝への参加は絶対だ。
藤林家の3兄弟はすべて、新約聖書に登場するキリストの弟子の名だ。長男が把宇路(パウロ)、次男が遍統路、三男が世覇音(ヨハネ)。遍統路の字は、キリスト教にちなむ「遍(あまね)しを統(す)べる路(みち)」という言葉から取られている。
一家は野球好き。把宇路さんは3年前に洛東が16強入りした時の左翼手、世覇音君は4月に山城の野球部に入部した。父も小学生の時に野球クラブに入ったが、礼拝で日曜の練習に参加できず半年ほどでやめた。悔いが残ったため、息子たちには、礼拝に参加しながらレギュラーをとるよう「両立」を求める。
遍統路君も中学まで、日曜は礼拝に参加していた。顧問の先生らが土曜に練習試合を組むなど配慮してくれたこともあり、レギュラーをつかみ主将も務めた。
だが、同じ頃、把宇路君は洛東で苦労していた。「レギュラーになるには、土日の練習試合に出て結果を残す必要があるかもしれない」。父は迷い始めた。
兄の最後の夏が終わった頃、父は阪神タイガースで活躍していたマートン選手と話をする機会に恵まれた。日曜は試合に出場し、月曜の礼拝に参加して信仰を保っている。そう教えられ、息子たちの礼拝への参加は、日曜以外でも許すことにした。
「レギュラーをとりやすい高校に行ったらどうか」。遍統路君が進学先の高校を決める際、父はそう勧めたという。だが、当人は泣いて抗議した。「どんなに強いチームに行っても、レギュラーをとる」。そう宣言して公立の実力校、塔南へ進んだ。
ミート力や長打力を磨き、木曜の「早退」の影響を感じさせない実力を付け、一塁手のレギュラーを獲得。練習でも試合でも人一倍声を張り上げ、何にでも率先して取り組む。その姿に部員たちの人望は厚く、主将にも選ばれた。「自分の行動や発言の一つ一つがチームメートに見られている。そう思いながらやっている」。チームを引っ張る自覚は強い。
「主将は育てられるものではなく、出会えるかどうか。それがチームの力を左右する」。京都成章を甲子園準優勝に導き、現在は塔南を指導する奥本保昭監督の持論だ。そんな名将も、自分が指示した意図を理解して部員にしっかり伝えてくれる遍統路君については、「いいキャプテンに出会えた」と信頼を置く。
昨夏に初めて4強入りした塔南は今夏、初優勝を目指す。「一人一人が責任感を持ったチーム作りを心がけてきた。甲子園に行って歴史を作りたい」。両立を続けた遍統路君の集大成の夏が始まる。(松本江里加)
■「思いきり楽しんで」 父・イザヤさん
遍統路はいつも穏やかで聞き分けが良く優しい。一方で、勝負事になると熱い思いを持って取り組める。部員をぐっと一つにまとめて、ほんまにようやってると思う。大会では思いっきり野球を楽しんで、打って打って打ちまくれ! 神のご加護がありますように。