「葛生原人」としてスタンドで応援する清水一弘さん=2002年7月25日、県営
7日に開幕する第99回全国高校野球選手権栃木大会(朝日新聞社、県高野連主催)。ある学校の応援席には「原人」が毎年、現れる。毛皮模様の布を体に巻き付けた格好で、チアリーダーと声を合わせて声援を送る。一体、何者なのか。今年は現れるのか。
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朝日新聞の紙面で最も古い登場は20年前。「葛生の試合になると必ず、ヒョウの柄の布を巻いたいかつい体の男がスタンドに現れる。“葛生原人”だ。(中略)葛生が勝ち進むに連れて、応援の生徒たちも愛着がわいてきたらしく、『原人、ご苦労さんです』と声をかけられる」(1997年7月25日付栃木版)。
「葛生原人」は1950年~51年、旧葛生町の洞窟で、中学生らが発見した骨のこと。旧石器時代人のものとされた。町は沸いたが、2001年に研究者の年代測定で15世紀前後の「中世」の人骨と結論づけられた。
その「葛生原人」を名乗って葛生高校(当時)を応援している人物が清水一弘さん(45)。旧葛生町職員で、合併後に佐野市職員となっても、スタンドでの応援を続けている。
同校は90年に優勝して甲子園へ。当時の盛り上がりを知る先輩職員から「葛生が甲子園に行ったら町が盛り上がるぞ」と聞いていた清水さん。「葛生はおらが町の野球部。町全体で応援しているというシンボルになろう」と、97年から原人に扮装しての応援を始めた。
この年は「原人効果」があったのか準優勝の好成績。その後も験を担いで「葛生原人」を続け、2005年に青藍泰斗(せいらんたいと)と校名が変わってからも、スタンドに駆けつけている。
応援は土日の試合が中心だが、平日に有給休暇をとって応援に行くことも。夏の大会の時期になると、上司が「試合に行くんだろう。早く申請を出せ」と言ってくれるなど、周囲も清水さんの応援をサポートしている。
葛生原人の衣装は、職場の先輩からもらった毛皮模様の毛布1枚。当初は裸足だったが、スタンドの床が熱すぎてやけどしてしまうほど。今はサンダルをはくが、「球場の熱気や選手たちの輝く姿が夏の暑さを忘れさせてくれる」と語る。
青藍泰斗は、今年の春の大会ではシード校だったが8強入りを逃した。夏の大会では昨年は8強。97年、2000年、04年、13年は準優勝と、甲子園まであと一歩届かない。自分が原因かと思い応援に行くことを悩んだこともあったが、辞めたら「葛生原人の体調が悪いのかと思われかねないから」と続けている。
葛生原人は学術的には否定されたが、清水さんは「夏の球場に現れる幻の存在でいたい」。今年も休日に試合があれば、迷わず駆けつけるつもりだ。葛生原人の姿になって20年。衣装はやや色あせてきた。「甲子園に行って新調したい」と、今年の同校の活躍に期待を込める。(岡見理沙)