64年に東京五輪で撮影した写真を前に笑顔を見せるレイモン・ドゥパルドンさん。「当時と今の東京の大きな違いは、女性が自由を勝ち取ったこと」と語る=東京・銀座、川村直子撮影
写真家集団「マグナム・フォト」のメンバーで映画監督でもある、フランスのレイモン・ドゥパルドンさん(75)による、自身を題材にしたドキュメンタリー映画「旅する写真家」が東京・渋谷で9日、公開された。世界各地を飛び回り約40年にわたって取材したニュース映像やルポルタージュと、大型カメラをキャンピングカーに積み込んでフランス国内を旅する現在の撮影風景が入り交じった、キャリア集大成の作品だ。
1960年、18歳で報道写真家となり、67年には仲間らと写真通信社「ガンマ」を設立。当初からニュース動画も記録した。写真家は撮るだけでなく自身の言葉で語るべき、と新聞で連載を持つなど、今では当たり前となった写真家のあり方を先駆けてきた。一方、これまで20作以上の長編映画を制作し、ルイ・デリュック賞やセザール賞ドキュメンタリー賞などを受賞。写真と映画を自在に行き来する。
今回の映画は、60年代の南米ベネズエラの内戦やソ連占領下のチェコ、70年代のフランス大統領選の裏側など、20世紀の世界の断片を伝える。どんな場所でもレイモンさんのカメラは対象に近く、市民の側に立ち、その声に耳を傾ける。
それでも「撮影はある種、人々から何かを奪う行為だ」と言う。「だからその行為をいったんやめて、自身にカメラを向けることが必要だった」。今作を経て、映像作家として新たなスタートを切ることができた、と笑顔を見せる。
共同監督した録音技師で妻のクローディーヌさんは「自分ひとりで映画をつくりたいと思っている若者たちへ」と言葉を継ぐ。どんな風にカメラを持ち、進んでいくか。対象と適切な距離をとること。実践を踏むこと。「夫がたどってきた道程を通して映画制作の一例を提示したかった」と言う。映画は東京・渋谷のシアター・イメージフォーラム(03・5766・0114)で公開されるほか、全国で順次上映される。
東京・銀座では1日からレイモンさんの写真展「TOKYO1964―2016」も開催中。64年に東京五輪の取材で来日、モノクロームで切り取った競技写真や市井の人々の姿と、昨年東京で撮影した色鮮やかなスナップ、85年から08年にかけて撮影した写真の3部構成になっている。シャネル・ネクサス・ホール(03・3779・4001)で10月1日まで。(川村直子)