憲法9条をめぐる自民党改正草案と安倍晋三首相の発言
安倍晋三首相が「2020年の新憲法施行」を唱える中、自衛隊明記を含む憲法改正が衆院選の自民党公約の柱の一つとなった。憲法9条の価値を見つめ直す動きがある一方、改憲派は「前進」と歓迎する。選挙結果次第では改憲への動きが加速する可能性があり、有権者はどう向き合うのか。
特集:2017衆院選
■改憲反対の主婦は
11歳の長女と、5歳の長男を育てる神奈川県座間市の主婦、鷹巣直美さん(40)は、北朝鮮情勢が緊迫する中で「いまこそ、戦争放棄と戦力の不保持を定めた9条をもっと世界に発信していくことが大切」と考えている。改憲は反対だ。
憲法9条を保持してきた日本国民にノーベル平和賞を――。そんな目標を掲げ、インターネットで署名活動する市民グループ「『憲法9条にノーベル平和賞を』実行委員会」(事務局・相模原市)の共同代表。6日発表の平和賞の行方を待つ一方、北朝鮮や米国を含めた各国に対し、「いかなる理由があろうとも戦争はしないでください」とサイトを通じて呼びかけている。
20代で留学したオーストラリアで、戦地から逃れてきた難民と出会った体験が原点。2012年に欧州連合(EU)がノーベル平和賞に選ばれ、「高い目標に向かって進もうとしている人たちを後押ししてくれる賞なんだ」と感じた。「世界中の子どもが戦争で苦しまないように」との思いから、9条へのノーベル賞授与を求める署名を集め始め、今年8月1日時点の賛同者は約73万人にのぼる。
自衛隊を明記するだけの改憲案にも、鷹巣さんは異議を唱える。「憲法違反といわれた集団的自衛権の行使を任務にもつ自衛隊が明記されれば、9条そのものを変えてしまうことになる」(白石陽一)
■首相の政策ブレーンは
安倍首相の政策ブレーンの一人、八木秀次・麗沢大教授(憲法)は自民党の公約に憲法への自衛隊明記が盛り込まれたことについて、「自民党はかつて自衛隊を国防軍とするとしていた時期もあり、そこには遠く及ばない」としつつ、「何歩か前進だ」と語った。「国民投票で過半数を得る必要性を考えれば、実現可能性を考えた案と評価していいのではないか」
理由は北朝鮮情勢だ。「憲法に明記されれば、自衛隊員の士気を高めるだろうし、国全体としての抑止力を高める効果も期待できる」と説明する。
小池百合子・東京都知事の希望の党が、候補者を公認する条件として「憲法改正への支持」を挙げていることには、「踏み絵を迫ることで憲法改正論者が集まるかもしれないが、政権を狙うとなると力量不足では」と語った。(編集委員・藤生明)