体重管理や月経に関するトラブルなど女子中高生アスリートが抱える体の悩みへの対策が遅れている。無月経による疲労骨折などを防いで豊かな競技生活を送ってもらおうと、各機関が本腰を入れ始めた。10月11日は「国際ガールズデー」。
特集「Dear Girls」
順天堂大女性スポーツ研究センターでは、全国の女子中高生に配布するための「FATスクリーニングシート」を作成中だ。「FAT」とは「Female Athlete Triad(女性選手が陥りやすい三つの障害)」のこと。①練習に対して摂取エネルギーが足りず、②それが原因で無月経となり、③疲労骨折や将来の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)につながる――ことを示している。スクリーニングシートはFATに陥りやすいことを選手自身に気づかせるためのもので、「体重を減らすとパフォーマンスが向上すると思いますか」「他人に隠れて食べることがありますか」「月経が止まっていますか」など25の質問項目から成る。
2009年の調査によると、米国の高校生アスリートの78%が三つの障害のうち一つ以上に該当していた。また、順大の鯉川なつえ准教授が2015年、全日本大学女子駅伝に出場した314選手に行った調査によると、46%に疲労骨折の経験があり、うち41%は発生時に無月経だった。月経が止まった平均年齢は15・6歳で、疲労骨折を経験した年齢分布では17歳が最多。高校入学早々に無月経に陥り、その後1年半ほどで疲労骨折に至るケースが多いとみられる。
鯉川准教授は「指導者が女性の体についてよく知らず、適切な助言ができない一方、婦人科医など医療の側はアスリートのことをよく知らないことも多い。その橋渡しができるようにしたい」と話す。
特に陸上の長距離などで、指導者が選手に無理な体重制限を強いているケースも少なくない。鯉川准教授は、指導者がFATのリスクを知りながらも目先の勝利やタイム向上を優先していることを問題視する。鯉川准教授は「体重が軽くなれば走れるというのがまず間違い。適切な食事と練習量を教え、自立した選手を育てることこそが指導者の役割のはず」と指摘する。
トップレベルの選手だけではない。NPO法人「日本子宮内膜症啓発会議」(東京都)が昨年9月、スポーツ庁の委託で実施した千葉県内の女子中高生608人への調査によると、8割が「月経による勉強・運動への影響がある」と回答。29%は月経に関する悩みを「誰にも相談しない」と答え、「保護者に相談する」の65%に次いで多かった。また、94%は「不調を感じても病院に行かない」と回答。不調を一人で抱え込む実態を指摘している。
そんな中で、女子生徒に助言できる教員を増やそうと、日本中学校体育連盟は昨年度から、部活動の指導をしている教員を対象にした各地での研修会の中に、婦人科医を講師に招いて女性特有の問題に関する講座を組み込んだ。菊山直幸専務理事は「多くの顧問は男性で保健体育以外の教員も多く、知識が十分だったとはいえない。運動をする女子としない女子が二極化する中、女子が運動から離れていかないようこうした課題にも取り組むべきだと考えた」と話す。研修は今月も福岡県で実施予定だという。(伊木緑)
■FATスクリーニングシートの主な項目
○当てはまるものが多いほどFATのリスクが高い
・現在、体重を減らす必要があると思いますか
・揚げ物を食べると罪悪感を感じますか
・炭水化物を食べることを制限していますか
・月経周期は不規則ですか
○当てはまるものが一つ以上なら、すでにFATの可能性
・1日に3回以上体重を測りますか
・この1年間に月経が5回以下ですか
・疲労骨折をしたことがありますか
○当てはまるものが一つでもあればすぐに婦人科やスポーツドクターのいる病院の受診を
・体重管理のために嘔吐(おうと)したり、下剤や利尿剤を使用したりしたことがありますか
・現在月経が止まっていますか
・毎回月経時に動けなくなるほどの激しい月経痛がありますか
(順天堂大女性スポーツ研究センター作成のシートから抜粋)