北九州向けのタウンページに採用されたロボットを描いた作品の一部=9月26日、北九州市小倉北区、金子淳撮影
自閉症の伊藤彬さん(23)=北九州市小倉北区=の作品が人気を集め、福岡市と北九州市などで今年配られる職業別電話帳「タウンページ」の表紙に採用された。見たものや感じたものを独特のタッチで表現した作品は、シャツや文具にも使われている。
福岡向けの作品は1から88までの数字がカラフルに、北九州向けは色々な形のロボットがぎっしりとひしめくように描かれている。福岡は4地区、北九州は2地区に分けて発行され、それぞれ作品の一部が表紙に使われる。
伊藤さんは2歳で自閉症と診断された。空中や地面に向かって、にこにこしながら指を動かす伊藤さんを見て、母の典子さん(45)は「何しよるんかな」と不思議だった。5歳のころ、保育士がペンと紙を渡すと絵を描き始めた。描いている時は、普段より落ち着いて席に座る。
小学3年生で企業主催の絵画コンクールで1位に。特別支援学校を卒業後、18歳で障害福祉などのサービスを手がけるNPOの列島会創造館クリエイティブハウス(小倉北区)に就職した。織物などを担当していたが、絵が得意だと知った職員の勧めで創造館の工房でも描き始め、作品はTシャツにプリントして商品化された。
人や動物を描くときは足から。ペンや絵の具で、迷いなく描いていく。数字と決めたら数字、ロボットと決めたらロボットを、小さくぎっしり描く。
昨年は、障害のある人たちがサッカーをテーマに描いた作品を集めた「パラリンアート・サッカーアートコンテスト」で入賞。創造館では伊藤さんの絵をデザインした一筆箋(せん)などの販売も始めた。職員は「よく見ると一つひとつの表情が違い、ほっこりして元気をもらえる」と話す。
9月26日、創造館でNTT職員から伊藤さんに感謝状が手渡された。壇上で拍手を浴びると照れたような笑顔を見せた。福岡・北九州のタウンページ編集長、吉原裕枝さんは「地域と暮らしの情報誌として、受け取った人みんなが、温かさを感じられる絵を探していた」と話す。伊藤さんの作品が表紙に採用されたタウンページ180万部は、両市などの世帯に配られた。
典子さんは「あっくんの人間性がにじみ出ている絵。将来が不安だった時期もあったが、認めてもらってうれしい」と話した。(新屋絵理)