商工中金の不正の構図
政府系の商工組合中央金庫(商工中金)が国の制度融資で不正を繰り返した問題は、ほぼ全店が関与し、813人もの職員が処分される事態となった。安達健祐(けんゆう)社長(元経済産業事務次官)が引責辞任して組織を見直すが、隠蔽(いんぺい)体質は根深い。不正の温床となった制度融資を景気対策の名目で続け、問題を見逃した経産省の責任は重い。
商工中金に2度目の業務改善命令 社長は辞任表明
商工中金社長ら3人辞任へ 不正、制度融資以外にも拡大
「過度なプレッシャーをかけてしまった。現場の職員の声などを聞き、認識を変えた」
政府から2度目の業務改善命令を受けて記者会見した安達社長は、現場に過大なノルマを課したことが不正につながったと認めた。これまで「ノルマは(現場の)誤解」と主張してきたが、全容調査でほぼ全店が不正に関わったと判明し、言い逃れができなくなった。
改善命令と同時に商工中金が公表した調査報告書によると、本来は「円高やデフレによる経営悪化」などが制度融資の条件なのに、経営状況をきちんと見ず、形式的な要件を満たすだけでも融資していた。税金が原資の低利融資を、民間金融機関と競争し、融資を増やすための「武器として利用していた」(安達社長)形だ。
民間銀行が1・2%の利子で企業に融資提案すると、1・0%で融資。差の0・2%分は国から利子補給を受けて利益を確保したケースも明らかになった。地方銀行幹部は「民間でも貸せる取引先に税金を使って低金利で売り込むなど論外だ」と「民業圧迫」を批判する。
商工中金の社内では、本部が支店などに与える業績目標は「割当」と呼ばれる。今回の不正の温床となった制度融資の「危機対応業務」も対象だ。景気悪化時の一時的な低利融資が景気回復後も続けられ、資金需要に見合わないのに国の予算がつけられた。融資拡大が目的化し、経営陣は「中小企業支援機関としての役割」(菊地慶幸副社長)を示すため、ノルマ達成を強く求め続けた。
元職員は「業績評価の中で危機対応は重要項目。支店の成績に加え個人の出世や賞与にも響く」という。検査した金融庁の幹部は「ノルマが未達の職員に本部の人間がパワハラまがいの罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせかけて追い込んでいた」と指摘する。
独特の「隠蔽体質」も不正の拡大につながった。不正が最も多かった池袋支店(東京)では、2014年末に多数の不正融資が発覚。当時の経営陣も報告を受けたが、経理資料の改ざんは本部が主導する形でもみ消された。
もみ消しに関与した幹部らは経…