優勝したディミトロフの後ろに「Nitto」のロゴ入り看板=ロイター
男子テニスのツアーは毎年、年間成績トップ8が争うATPファイナルで締めくくられる。その大会の冠スポンサーに今年から電子部品大手の日東電工(本社・大阪市)がなった。企業のグローバル戦略におけるスポーツの活用法について、高崎秀雄社長に話を聞いた。
11月にロンドンを舞台に行われた今年の大会は、過去3年連続出場の錦織圭(日清食品)がけがのために不在。日本のメディアでの露出はかなり減った。
しかし、高崎社長はいう。「世界の舞台で1年間通じて頑張ったトップ8を応援するのがコンセプト。固有の選手へのこだわりはありません」。売り上げの約75%を海外が占める中、グローバルに「Nitto」の認知度を高める戦略の一環だという。
同社は2005年から13年間、大阪国際女子マラソンに協賛してきた。「そこでも固有の選手ではなく、挑戦し続ける選手を励ましたかった」。来年に創業100周年を迎えるにあたり、「大阪から世界へ。ステージを上げたかった」。
スポーツにこだわらず100近いイベントを検討した結果、ATPに巡り合った。昨年まで冠スポンサーだった英銀行大手バークレイズのように顧客との距離が近い会社ではない。自動車、電子機器、住宅、医療関連など事業領域は幅広いが、BtoB(企業間取引)がメインだ。
スポーツに投資する魅力は何か。「企業は挑戦し、イノベーションを起こし、事業を広げる。スポーツも今年優勝しても、来年勝つ保証はない。常に成長を目指す理念が共通項です」
大会期間中、VIPルームに一度に約60人を招き、もてなした。バーでお酒を飲み、食事もしながらゆったり観戦してもらう。「ご夫婦やご家族と一緒だと、『あの商談の契約をそろそろ』とかではなく、リラックスした雰囲気でトップ同士が人間関係を築ける」。そんな発見があった。
世界に散る約100社のグループ会社の取引先からも「ロンドンだったら、行ってみようかとなる」。世界有数の大都市の魅力も大きいと語る。
今夏は4大大会、ウィンブルドン選手権も観戦し、テニスの大会が醸し出す品格を感じたという。「会場での応援も審判が注意すれば、すぐに静寂になる。甲子園球場の雰囲気もいいけど、また違いますね」(ロンドン=稲垣康介)