インタビューに答えるラミレス監督=横浜市、嶋田達也撮影
未来へつなげ高校野球 私の提言
最も印象深い高校野球の試合は、早稲田実と駒大苫小牧の決勝戦です。延長15回で引き分けた試合は目が離せませんでした。「マー君(田中将大)、すごいな。ハンカチ王子(斎藤佑樹)もすごいな」と。もう11年も前ですか。甲子園は時に、プロよりエキサイティングです。特定の球団のファンだけでなく、すべての野球ファンが見る。来夏、大会は第100回を迎えるのですね。日本の文化になっています。
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私は15歳の時、プロになると決意して学校を辞め、野球に専念しました。日本では学校教育を受けながら野球が出来るが、母国のベネズエラでは学費の負担もあって、一部の裕福な人を除き、難しい。年代別の代表チームに何度か選ばれ日本遠征の機会もあったが、お金がなくてあきらめたことがあります。大リーグのスカウトの目にとまり17歳で、インディアンスの野球アカデミーに入りました。
日本とは考え方が違う。ベネズエラでは家族のために少しでも多くお金を稼ぐ必要がある。そのために、自分が野球で生き残ることを一番に考える。送りバントを誰も不思議に思わない日本とは違い、個人主義です。現代の日本ではプロになれなくても、食べていけないことはないでしょう。
日本の高校世代はとてもスマートに野球に取り組んでいるという印象を受けます。日本の高校野球は長い歴史があり、練習や試合のシステムも確立している。体を大きく強くし、打席ではみんながホームランを狙うベネズエラとはこの点も少し異なると思います。日本にはこの育成システムがあるから、一部の選手は高卒でプロの世界に順応する準備が出来ている。横浜DeNAベイスターズでは筒香、梶谷らが高卒です。
不思議に感じたこともある。いま20歳のおいのヨンデルは東京の私立高に留学し、野球部に在籍した。下級生の頃はなかなか試合に出られなかった。「先輩後輩」という文化が少し影響していたのかもしれませんね。私はそれを知らず、なんでだろうと思っていた。
監督になって2年目。私はよく選手に「エンジョイ」と言います。例えばキャンプインの時、「朝から晩まで頑張ります」と意気込みを語るのが一般的ではないですか。私は「楽しいキャンプにしよう」です。日本では野球はエンジョイよりも一生懸命やるものと考える人が多数だと思います。ほぼ全員が経験している高校野球の影響があると思います。
私はそれを変えようとしているのではありません。ただ、日本と外国、両方の野球を知る監督として、一生懸命さに、「楽しむ」という要素を加えてみたらと思うのです。重圧がかかる試合でも、自分を信じ前向きにプレーすることで、もっといい野球が出来るよ、と。そうして出来上がっているのが、明るいと言われる今のベイスターズというチームです。
球児へのメッセージですか? もちろん「エンジョイベースボール」です。(構成・竹田竜世)
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Alex Ramirez 1974年、ベネズエラ出身。43歳。大リーグ・インディアンスなどをへて2001年からヤクルト、巨人、DeNAでプレー。リーグMVP2度、本塁打王2度など。13年には日本での2千安打も達成。DeNAの監督に就任して2年目の今季は、セ3位からクライマックスシリーズを突破し、19年ぶりに日本シリーズを戦った。