作家の須賀しのぶさん=山本和生撮影
未来へつなげ高校野球 私の提言
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高校球児って、2年半でとんでもない成長をする。特に最後の半年は尋常じゃない。それを見るのが一番の楽しみです。
以前、人数もぎりぎりの弱小校を追いかけたことがあります。経験者はキャッチャーの子、1人だけだろうなっていう。
そのチームが最後の夏、初めてゲッツーをとった時、泣いてしまいました。こういうのを見るのが、すごくうれしい。そんなことを熱く語っていたら、本ができたという感じです。だから私は地方大会が一番好きで、甲子園は「後夜祭」のように見ています。
高校野球は「部活動」だということを忘れてはいけないと思います。著書「夏の祈りは」の中で監督がこう話す場面があります。
「高校野球は、日本をあげての巨大な祭りみたいなものだ。参加する方法や、好きである形は、いくつあってもいいんだよ」と。私がこの本の中で一番言いたかったことです。
昨年は女子マネジャーの甲子園練習参加の是非が話題になりました。高校野球はどうしても男性のものというイメージが強い。それはそうなんですけど、もう高校野球はそういうものを超えたすごい巨大なお祭りになっている。
プレーせずに、女子マネジャーをやりたいっていう子がいたら、いいんじゃんって思う。細かい仕事は女子の方が得意だろうし。一方で、「練習よりマネジャーの方が断然楽しかった」と振り返る男性の話も聞いたことがあります。硬球が怖かったと。マネジャーをしていたから最後までみんなと一緒にできたし、本当にそれで救われたんだと。参加する形は、人それぞれでいいんです。
高校野球は非常に日本的というか、独自の進化を遂げてきた。今も「精神主義」のような部分が残っています。それが悪いかというとそうではなく、みんなが夢中になるのはそういうところなんだと思う。でも、いきすぎると我慢しすぎて肩を壊したり、さらにそれが美談になっちゃったりして……。
大切なのは、大人が節度を持つこと。球児に対して求めすぎない。ここまで巨大な大会になっちゃって難しい部分はあると思います。でも、あくまで「楽しいスポーツ」。そんな感覚で接してほしい。
観客もそう。私は判官びいきは嫌いだし、球場全体がどちらか一方を応援するような雰囲気になるのも嫌いです。強くても弱くても、公立でも私立でも、同じ高校生が一生懸命やっているんですから。周りの大人がもっと冷静になる必要があると思います。(構成・山口史朗)
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すが・しのぶ 作家。1972年、埼玉県生まれ。94年に「惑星童話」でコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞し、デビュー。2016年には、冷戦下のドイツを舞台に、ある音楽家の成長を描いた「革命前夜」で大藪春彦賞。高校野球を題材にした作品に「雲は湧き、光あふれて」「エースナンバー」などがある。