ミルメーク。粉末や液体タイプがある。昨年は発売から50年だった
「ミルメーク」は発売から半世紀が過ぎ、主に学校給食で使われる牛乳調味料だ。私にとっては牛乳が飲みやすくなり、小中学生の時は我が家の「プチぜいたく品」だった。名古屋が発祥と知り、懐かしい味の秘密を調べたくなった。
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製造元は名古屋市守山区の大島食品工業で、給食用の小魚なども販売している。「『大島食品』というと、『どなた?』となるけれど、ミルメークの会社というと、『子どもの頃に飲んだよ』と言ってくださる」と、常務の中根勇さん(54)。学校給食が会社のPRの場だ。
約15年ぶりに、コーヒー味を牛乳に混ぜて飲んでみた。あの甘い味は変わらない。袋には「カルシウム・ビタミンC配合」「牛乳嫌いのお子様にも大好評」。やはり、これが売りなのか。
大島食品工業によると、1967年、脱脂粉乳からびん牛乳に代わり始め、カルシウムやビタミンの栄養不足を心配した栃木県の栄養士の声が販売のきっかけだった。栄養士の資格を持つ中根さんは「脱脂粉乳の方が栄養素はあったようです」。
「ミルクでつくる(メイク)」からミルメークと名付けられた。コーヒー牛乳から着想し、カルシウム以外にインスタントコーヒーや砂糖なども混ぜた。「牛乳を飲めない子が飲んだ」「牛乳が余る冬場でも飲める」などの声が寄せられた。合成着色料はなく、鉄分なども加えた。
現在の味はコーヒーのほか、ココアやイチゴなど8種類。売り上げはコーヒー味が7割を占める。一方、胡麻(ごま)きなことピーチ味は売り上げが伸びず、販売中止に。中根さんは「栄養も大事だが、ミルメークはおいしくなければいけない」と学んだという。
全国に出荷も、少子化で減る傾向
ミルメークは全国でどれだけ飲まれているのだろうか。2014年の年間出荷数は全都道府県に1416万8117食で、うち学校給食用は980万食ほど。小中学生は給食で1年間に1回は飲む計算だ。
都道府県別の出荷数で最も多いのが地元の愛知県。ただ、「本来の牛乳の味を味わってほしい」として、大島食品工業のおひざ元、名古屋市の学校給食ではさほど使われず、校長の裁量で購入する学校が数校あるという。2位以下は千葉県、大阪府、福岡県と続き、岐阜県は20位、三重県は30位。最も少ないのは鳥取県だった。
私の出身地・富山県魚津市では、今でも学期に1度ほどミルメークが給食で登場する。同市学校給食センターの栄養教諭は「牛乳が飲みやすくなり、子どもたちは喜んでいますよ」。
ただ、出荷量は年々、減少傾向だ。昨年は少子化の影響で、売り上げから試算すると14年より約200万食少なくなった。農林水産省と農畜産業振興機構によると、16年度は10年前と比較し、小中学校などの学校給食で牛乳を飲む人数は8%減の972万7781人で、準備した牛乳の量も9%減の35万1218キロリットルだった。
ロールケーキ、あめ… コラボ商品に力
大島食品工業がいま力を入れるのはコラボ商品だ。「他の企業から提案をいただきありがたい」と中根さん。給食でミルメークに親しんだ企業担当者の協力もあった。特産品開発会社「スマイル―リンク」(愛知県豊橋市)の坂本剛一さん(42)は小学校の給食の時、余ったミルメークをじゃんけんで取り合ったことを覚えている。
コラボのきっかけは12年秋、ミルメークが名古屋発祥と知ったからだ。「名古屋めし」が話題になっていたこともあり、「ミルメークは名古屋のソウルフード。懐かしい味をPRしよう」と、ロールケーキやあめの販売をしてきた。
同県豊田市の東名高速上り線・上郷サービスエリアの商業施設では、コラボ商品を販売するコーナーがある。「給食のあの味」「懐かしのコーヒー味」と、ポップ広告が踊る。訪れる客の6割強が50代以上で、ミルメークに親しみがある人も多く、お土産などに買っていくという。
坂本さんは新商品の開発も検討中だ。「ミルメークの潜在能力はある。PRの方法が課題だと思う。地元で頑張る企業を今後も応援したい」(後藤隆之)