国際アンデルセン賞を受賞し、記者会見する角野栄子さん=27日午後3時36分、東京都新宿区、藤原伸雄撮影
児童文学のノーベル賞と言われる国際アンデルセン賞の作家賞に、「魔女の宅急便」が代表作の児童文学作家、角野栄子(かどのえいこ)さん(83)が選ばれた。日本人の作家賞受賞は3人目。角野さんは27日に記者会見し、「大好きなことをして、世界中で読んでもらい、認めてもらったことは大きな喜び」と語った。
アンデルセン賞に「魔女の宅急便」の角野栄子さん
国際児童図書評議会(IBBY、本部スイス)が26日に発表した。国際アンデルセン賞は2年に1度、長年にわたり子どもの本に貢献してきた作家と画家に贈られる。
今年の作家賞には33人が候補に挙がり、5人が最終候補に残った。角野さんの作品について、国際選考委員長のパトリシア・アルダナ氏は「言い尽くせないほどの思いやりと情熱がある。絵本でも物語でもいつでも驚きと魅力に満ち、読者に力を与えてくれる」と評価した。
角野さんは会見で「読書によって積み重なった言葉は、人が生きていく上で力になる。人を引きつけたり、自分を表現したりできる」と強調した。さらに、読んで感動すると自分でも何かをつくり出したくなり、創造に結びつくとも述べた。
歴代の受賞者には「長くつ下のピッピ」で知られるスウェーデンのアストリッド・リンドグレーンら角野さんが好きな作家も多く、「仲間に入れて欲しいという強い気持ちはあったので、本当にうれしい」と喜んだ。過去の日本人受賞者は、まど・みちおさんと上橋菜穂子さん。
授与式は、8月にアテネで開かれるIBBYの世界大会で行われる。(及川綾子)
記者会見での主なやりとりは次の通り。
――「まさに私が常日頃思っていたことを評価していただいた」と言っているが、具体的には。
「昔、私の娘が、ラジオをさげてそこから音符が噴き出ている魔女の絵を描きました。主人公を当時の娘と同じ12、13歳に設定し、子どもと大人の間の年齢で揺れ動きを抱えている子がたった一つ持つ魔法で空を飛んでいくのが『魔女の宅急便』。選考で、少女の気持ちがとらえられていると言ってもらったのが、とてもうれしい」
――選考委員長は「物語が深く日本に根ざしている」と。
「深川の生まれで江戸っ子。歌舞伎や講談、無声映画が好きな下町生まれの父に色んな話をジェスチャー付きでしてもらいました。そういう言葉が体の中に入っていて、自然に出てきちゃうんじゃないかと思います。自分の言葉を持つというのは、この世界をとても広くしてくれる」
――『トンネルの森 1945』などは、戦争と平和ということについて書いている。
「終始一貫、平和を願っております。戦争で自由でない世界を体感している。後追いの平和論や偏った主義主張は書きたくなかった。終戦を10歳で経験した少女の私の目を通し、そのまなざしから絶対離れることなく書いてみようと思ってやっと書けた作品です」
――これからどんな作品を。
「『トンネルの森』は終戦で話が終わっている。少女がどうやって戦後を暮らしたか、続きの物語を書いてみたら落差が際立って面白くなるんじゃないか」
――子どもに伝えたいことは。
「それをストレートに書いたり言ったりしてしまったら、読む自由を奪う。言葉を、風景の中に溶かし込みたい。読書は勉強でもなく、強制されるものでもない。私が書いたものでも、読んだ時からその方の物語に変わり、読んだ人の力と相まって広がっていくのが物語の素晴らしいところです」