明徳義塾―日本航空石川 九回裏日本航空石川無死一、二塁、原田は左越えにサヨナラ3点本塁打を放つ=遠藤真梨撮影
(30日、選抜高校野球 日本航空石川3―1明徳義塾)
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打ち勝つ。日本航空石川には打撃への信念がある。
1点を追う九回、無死一、二塁で打席には3番原田。前打者が四球を選んでおり、相手はまずストライクを欲しがると読んだ。狙っていた初球、真ん中のスライダーを捉えると手応えは「完璧」だった。打球は高い軌道の弧を描いて左翼席で弾む逆転3点本塁打。接戦にけりをつけた。
実はこの劇的な決着、原田の強気がなければ生まれていなかった。一、二塁と好機が広がり、中村監督から「バントをするか?」と聞かれていた。強打が自慢のチームだが、犠打で走者を三塁に進めてまず1点、がセオリーだ。
しかし、原田は迷わず「打ちます」と即答した。初戦では4安打1打点と絶好調。この試合も3打席凡退だったが、直前までの2打席の中飛は、いずれもバットの芯で捉えていた。
右の3番打者は、冬場に1・5キロのハンマーや1キロ近いバットを振り込み、スイングスピードを時速135キロから140キロ前半まで上げていた。甲子園で力のある振りを見せるチャンスだ。「自分で決めたかった」という。
それに好機で心を落ち着かせるすべも知っている。打席に入る前、スタンドの看板を見る。昨夏の全国選手権に出場した時にコーチに助言され、平静を取り戻すルーティンになった。今春、左翼席最上段に掲げられた看板に描かれているのは、大手金融グループの広告に俳優・阿部寛さん。看板を仰ぎ見て「阿部さん、笑ってるな」。ほどよく力を抜くことができた。
中村監督は試合後、ヒッティングとの間で揺れ動いたあの場面を振り返った。「『(バントを)します』と言ってきたらさせていた。でも打ちますと言う気持ちの強さが原田にはある。結果がダメでも割り切れる」。33歳の青年監督は、自らの判断を覆した選手の思いをたたえた。
春夏通じて初の8強。選手も監督も甲子園で成長している。(有田憲一)
○中村監督(日) 「ふわふわしています。打ち勝つ野球をしてきたので、最後の場面もバントはないと思った。選手を信じて良かった」
○井川(日) 九回先頭で安打を放ち、サヨナラにつなげる。「最後まで何があるか分からないからと、あきらめなかった。狙っていた直球を打てた」