打上川治水緑地の遊歩道の桜並木は満開を迎えていた=26日午後、大阪府寝屋川市、小林一茂撮影 桜ものがたり2018 【特集】桜ものがたり 「目が見えないんだ」。18年前の冬、大阪府寝屋川市の辻節子さん(75)は夫の嘉彦さん(76)に突然そう告げられた。役所勤めの夫は、仕事の書類を読むこともできなくなっていた。 定年まで1年を残して退職。気晴らしにと、杖と勘を頼りに散歩を始めた。だが、徐々に家にいる時間が増えふさぎ込むように。そんな姿を見かね、散歩に付き添うようになった。 春、近くの打上川治水緑地は、どこまでも続く並木の淡い桜色に染まる。「天気いい?」「空は青い?」。「五分咲きぐらいだね。つくしも出てきたよ」。夫の手を引き答えた。 穏やかな日々は続かなかった。夫は自転車にはねられ車いす生活を余儀なくされ、同じ頃に認知症も発症。やがて、節子さんのことも分からなくなった。今は夫に会いに、週4日、特別養護老人ホームに自転車で通うが、声をかけても反応は無い。 節子さんは、いまでも散歩を続けている。桜が咲くと、手をつなぎ連れ添う姿を友人にからかわれて、はにかむ夫の姿を思い出す。「2人で過ごした穏やかな、最後の思い出です」。温かな記憶を胸に今年も、桜の下を独り歩く。(小林一茂) |
夫の目となり伝えた桜 思い出の道、いまは一人で
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