滞在先のニューヨークでも待ち合わせは無作為に選んだマンハッタンの一角。見知らぬ場所にこそ、思わぬ体験がある=米ニューヨーク、ランハム裕子撮影
IT芸術家 マックス・ホーキンスさん(27歳)
待ち合わせは、米フロリダ州マイアミ市の外れにある新興宗教「サイエントロジー」の集会所だった。
この日、フェイスブック(FB)上で公開されている市内のイベントの中から、コンピューターが無作為に選んだ。見知らぬ人たちと一緒に朝食を食べた後、次は人事管理ソフトの利用者の集まりへ。20人ほどがソフトの問題点を話し合うのを聞き、次は化粧品店のメイクアップ講座へ。コンピューターが選ばなければ、おそらく行くことのない場所、会うことのない人たちだ。
「こうして町を歩くと、自分の知らないところで、たくさんの人の営みがあることを感じられるんです」
FB上で公開されている集会をソフトに無作為に選ばせて参加し、食事の場所も無作為に選ぶ。「行く場所、会う人、食べるもの……。自分の趣味や嗜好(しこう)から離れられたら、どんな世界を見ることができるのか」。そんな興味で始めた生活はまもなく3年になる。
幼い頃から独学でプログラミングを学び、大学卒業後に入ったグーグルで、最先端のITエンジニアとしての道を歩き始めた。しかし、何かが引っかかるようになった。
「このままでは、自分と違う考え方の人や、違う暮らしを知らないままの人生になってしまうのではないか」
米国ではいま、社会の分断が進んでいると言われる。同じような考え方や政治的志向の人だけが付き合い、FB上で似た者同士がつながる。どうしたらその外へ抜け出せるのか。考えついたのが「コンピューターに無作為に自分の行動を決めさせること」だった。
2年足らずでグーグルを退社。…