石牟礼道子さんについて語る緒方正人さん=15日、東京・有楽町
水俣病の実相を描いた小説「苦海浄土」で知られ、2月に90歳で亡くなった作家、石牟礼(いしむれ)道子さんを送る会(水俣フォーラム主催、朝日新聞社など共催)が15日、東京・有楽町朝日ホールで開かれた。約千人が石牟礼さんの遺影に黙禱(もくとう)を捧げ、交流の深かった人たちが悼む言葉を述べた。
皇后さまが「重く受け止めた」石牟礼さんからの手紙
水俣病で父親を亡くした熊本県芦北町の漁師緒方正人さんは、原因企業チッソの責任を問ううち、自らも自然を損なってまで利便性を追求する社会の一員であることに気付いて苦悩したと振り返った。その姿を見た石牟礼さんは「命の世界に、よう帰ってきたですね」と声をかけてくれたという。「今の制度社会からこぼれ落ちるものをすくい取る慈愛の人だった」
詩人の高橋睦郎さんは「苦海浄土」を「民衆の叙事詩」と表現。「(水俣病患者ら他者の苦しみを)共に苦しむことができる『共苦の人』だから書けた」と話した。批評家の若松英輔さんは「いずれ水俣病事件も分からなくなる時代が来る」とし、「石牟礼さんが何を残してくれたのか、若い人たちに語っていく役目が我々にはある」と指摘した。
会に先立ち、交流があった皇后さまも会場を弔問に訪れた。石牟礼さんの遺影を見つめ、白い花一輪を捧げて深く一礼した。長男の道生(みちお)さんに「お悲しみが癒えないでしょうね。慈しみのお心が深い方でした。日本の宝を失いました」と声をかけたという。
さらに皇后さまは、社会学者の鶴見和子さんの名をあげ、石牟礼さんと初めて会ったのが、2013年7月の鶴見さんを追悼する催しだったことに触れた。同年10月、天皇陛下とともに熊本県水俣市を訪れた際、胎児性患者2人にひそかに面会したのは、石牟礼さんから「胎児性患者に会ってやって下さいませ」との手紙を受け取ったことがきっかけだった。
道生さんは皇后さまに「患者さんに会ってくださり、母が感激していました」と伝えたという。(上原佳久、編集委員・北野隆一)