大丸松坂屋百貨店が名古屋市の中心部「栄地区」に新たな商業施設を開業しようとしている。ライバルの名古屋駅前地区では大型の商業施設が相次ぎ開業し、栄地区にとっては、それにどう対抗するかが課題となっている。新商業施設は、人の流れを取り込むきっかけになるのだろうか。(細見るい、斉藤明美、山本知弘)
日生の新ビル テナント誘致
大丸松坂屋百貨店が出店を検討しているのは、広小路通と大津通が交わる栄交差点の日本生命栄町ビルの跡地で、現在は更地になっている。日生は新たに地上6階、地下2階で延べ床面積6300平方メートルのビルをつくる。大丸松坂屋百貨店は1棟まとめて借りてテナントを誘致し、2020年後半のオープンをめざす。地下街「サカエチカ」とつなげる予定で、地下からも足を伸ばしてもらう。
今回の出店計画は、大丸松坂屋百貨店の危機感が背景にある。
同社は栄地区で松坂屋名古屋店を展開。総売り場面積は約8万7千平方メートルと広く、14年2月期まで名古屋市内の百貨店では売上高で「地域一番店」であり続けてきた。だが、婦人服販売の不調などで3年連続で決算期の売上高は前年を下回っている。消費増税により個人消費が鈍ったことも、追い打ちをかけた。
18年2月期の売上高は、前年比0・3%減の1176億円。今月10日にあった決算会見で小山真人・名古屋店長は減収の理由について「名駅地区の競合他社(JR名古屋高島屋)の増床もあり苦戦が続いた」と分析した。百貨店本体の売り場面積を減らしたこともあり、売上高はピーク時の1992年2月期の7割弱にとどまる。
18年2月期決算では、松坂屋は名古屋を含む5店すべてが前年の売上高を下回った。大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJフロントリテイリングは最近、不動産事業に力を入れており、東京・銀座の複合商業施設「GINZA(ギンザ) SIX(シックス)」などはテナント収入が好調。施設規模は異なるが、こうした成功モデルを名古屋でも広げていくとみられる。
栄へあらたな人の流れ期待
名駅、栄両地区を含めた名古屋市のいまの「地域一番店」は、名駅のJR名古屋高島屋。JR名古屋駅直結という好立地をいかし、集客力を高めている。昨春には隣接する専門店街「タカシマヤ ゲートタワーモール」もオープンし、勢いは加速。18年2月期の売上高は前年比21・1%増の1557億円だった。2館を合わせた売り場面積は10万平方メートルほどで、ライバル百貨店を引き離しにかかる。
リニア中央新幹線の開業を27年に控え、名駅周辺では急ピッチで開発が進む。15年に大名古屋ビルヂング(地上34階)とJPタワー名古屋(地上40階)、17年にJRゲートタワー(地上46階)、グローバルゲート(地上36階)など、オフィスや商業施設が入る超高層ビル開業が続いた。オフィスで働く人が増え、仕事帰りの買い物も盛んだ。新幹線やJRの在来線、名古屋市営地下鉄など多くの路線が乗り入れ、岐阜や三重、静岡といった近隣県からもアクセスしやすい。
一方の栄地区は再開発の遅れが指摘されてきた。名駅地区の勢いがますます強まるなか、中日ビルの建て替えや6月末閉店の老舗百貨店・丸栄の跡地再開発の計画がようやく動き出した。そこに今回、大丸松坂屋百貨店による出店計画が持ちあがり、栄地区の商業施設からは「出店により、新たな客が来れば、地域活性化につながる」(名古屋三越)と期待する声も出ている。