村山保範さんと店で販売している宇宙芋。一かご500グラムで500円=2018年4月3日午後3時2分、愛知県豊田市四郷町
自動車などモノづくり産業が盛んな愛知県は有数の農業県でもある。ここにちょっと変わった野菜が相次いで登場し、じわじわと人気を集めている。インパクトの大きさと味わいで、生産者は勝負に出る。
豊田市で飲食店「タコ焼八丁」を営む村山保範さん(78)が取り組むのは「宇宙芋」。見た目は芋だが、実は地上のつるにできるムカゴだ。空中になる芋に見えるので別名「エアポテト」。9~11月に収穫し、大きいものは直径15センチ、550グラムに達する。
村山さんは店で使う野菜を畑で自作している。宇宙芋の栽培は2005年、友人からもらった東南アジア原産の芋のムカゴを植えてみたのが始まりだ。
収穫後、生で擦ってお好み焼きやたこ焼きに入れたところ客から好評で、ジネンジョの代わりに使うことにした。「味に特徴はないが、混ぜると他の食材を引き立てる。ここにしかない『オンリーワン食材』になる可能性がある」。公的機関で分析してもらうと、低カロリーで繊維が豊富というデータも出た。
徐々に栽培面積を広げ、昨年は6トン収穫した。一部は粉末にして五平餅やどら焼きに混ぜて使っている。昨年「宇宙(そら)の舞」と商標登録し、道の駅やJAの店に置いてもらった。500グラムで500円。珍しさから完売する店もあったという。
炊き込みごはん、ポテトサラダ、バターソテー……。様々な宇宙芋レシピを考える一方、知り合いの専業農家に生産委託も始めた。「マイナーな野菜なので簡単には広がらないが、いずれは豊田の特産品として定着させたい」と話す。
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岐阜、長野との県境にある豊田市稲武地区で建設会社を経営する安藤和央さん(61)と、次男の真也さん(32)は「白い発芽にんにく」を5年半前から栽培する。ニンニクの新芽はふつう緑色だが、日に当てないため元は白く先は黄色い。
和央さんが浜松市の知人が栽培しているのを知ったのがきっかけ。「県内では見たことがない。稲武の特産品になると思った」。食感はサクッと軽いが、刺激のある味はまさにニンニク。「和、洋、中どんな料理にも合う」のが売りだ。
地元の元豆腐工場を買い、鉄骨3階建てに水耕栽培設備を入れた。約200平方メートルの暗闇の中、液肥と水をニンニクの球に吸わせ、発芽から約2週間後、20~30センチに伸びた芽を収穫する。一つの球から取れるのは2回ほど。10月から翌年4月の間、6人のパート従業員とヘッドライトをつけて収穫を繰り返す。
近くの道の駅で1束290円で売るほか、名古屋の飲食店にも出荷しているが、珍しいぶん初めは売れなかった。ポン酢漬けやスープを作って試食会を開き、知名度向上に努めてきた。真也さんは「たれやドレッシング、サプリメントと様々な加工品、関連商品を作っていきたい」。
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山間部の設楽町津具地区と豊根村では、大人の顔ほどもある「奥三河天狗(てんぐ)なす」の栽培が盛んだ。長さ約30センチ、重さ400~700グラムと通常の5~10倍。へたの部分から天狗の鼻のような形が出やすく、地元に天狗伝説があるため、この名がついた。以前は主に地元で消費されていたが、近年は独特の名前と形で注目を集めている。
水分が多く果肉が柔らかいことから「ナスの大トロ」とも呼ばれ、焼きナスや素揚げなどに適しているという。きれいな水と空気、高原特有の寒暖差の3条件が生み出す特産品だ。
JA愛知東によると、現在10軒ほどの農家が約35アールで栽培。6~11月、約1万5千本を名古屋や浜松の市場へ出荷し、日本料理店やホテルのレストランでも採用されている。
栽培15年以上になる佐々木富子・奥三河天狗なす保存会長(58)=設楽町津具=は「SNS映え」する形を生かして情報発信している。「大型のナスは各地にあるが、口の中に入れた時のとろっとした食感とまろやかなうまみはどこにも負けない」と胸を張る。(臼井昭仁、松永佳伸、北上田剛)
農業産出額 全国8位
愛知県によると、2015年の同県の農業産出額は3063億円で全国8位。シソ(全国シェア69・9%)、トウガン(同62・5%)、フキ(同35・5%)、イチジク(同25・4%)、ウズラ卵(同70・8%)が日本一、キャベツ(同13・9%)、ミツバ(同15・3%)が全国2位を占める。