文鳥の「喜(き)っちゃん」。喜びにあふれた一生を送れるようにと妻が名付けた
妻はサバイバー:6(マンスリーコラム)
半分も残した五目焼きそばの皿を、目の前で後輩記者が心配そうに見つめている。ふだんの私はめったに食事を残さないのに、もう胃が受けつけない。
2014年8月末、同僚とランチを食べた中華料理店で、私は自分の変調を悟った。
封じ込めた幼少期の記憶、鮮明に トラウマと向き合った
1~2週間前から何を食べても砂をかむようで、食欲がわかない。夜中に重苦しい気分に襲われ、何度も目が覚める。起きてからも頭がボーッとしている。
妻にカウンセリングをしている臨床心理士から勧められて、精神科クリニックを受診した。診断は「適応障害」。何らかの状況や出来事が原因となって抑うつ、不眠、食欲不振などをきたす疾患だ。特定の原因が取り除かれると症状も消える点がうつ病との違いだが、進行してうつ病にいたるケースもあるという。
私の「特定の原因」は公私に絡み合っていた。妻のアルコール依存が進み、肝機能が命に関わるレベルまで悪化。しかし、精神障害がネックになり、治療の受け入れ先を探すのに四苦八苦した。そんな状況のなか、勤務先で異動が決まる。大きな成果を求められる取材チームに組み込まれ、妻の介護は綱渡りになった。
クリニックの主治医の勧めで3カ月間の休職。抗不安薬を服用しながら無為の時を過ごした。ほぼ同時期に妻も入院した。
妻に精神的な症状が現れてから、すでに10年を超えていた。「長年、1人で背負ってきた疲労が蓄積したのでは」と臨床心理士は話した。
介護という営みで怖いのは孤立だ。独りで悩みを抱え込み、「介護うつ」にいたるケースを聞く。とりわけ、介護する人とされる人の2人暮らしでは、介護者が追い詰められやすいといわれる。
翌年の5月31日、朝日新聞1…