ザ・コラム:稲垣康介(編集委員)
アイルランドの首都ダブリン中心部の一角に、めざすバーはあった。
「パンティー・バー」
何やら怪しげな、淫靡(いんび)なネーミングの店で待ち合わせたのは、オーナーのパンティー・ブリスさん(49)。アイルランドでは誰もが知る有名人だ。もちろん芸名で、本名はローリー・オニール。ケバケバしい厚化粧、ドレスやハイヒールなど派手な衣装をまとう女装パフォーマーで知られる。
8月8日、親交が深い友人の紹介で会うことが出来た。日本通でもある彼に今、聞きたいテーマがあったからだ。
自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が月刊誌に同性カップルを念頭に持論を寄稿した件だ。「彼ら彼女らは子供をつくらない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」
文面には、差別意識と偏見がにじむ。
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ゲイであるオニールさんは若いころ、異端であることの葛藤を抱えて生きてきた。法を犯す後ろめたさ。国民の8割以上がカトリック教徒というアイルランドでは、1993年まで同性愛は犯罪とされていた。
「ここに私の居場所はない。もう二度と祖国の土を踏むことはない」。91年、逃げるように母国を飛び出し、東京にたどり着いた。英会話学校で教えながら、好況に浮かれる東京に理想郷を見つけた。ゲイバーが軒を連ねる新宿二丁目。「若かったし、バブル景気に酔う東京は外国人の気楽さもあって、解放された気分になれた」
次第に母国に開放の機運が高ま…