賞状や招待状を筆で手書きする筆耕の世界。この道30年の達人は、美しい字とともに最も美しいレイアウトを追求してきました。 筆友社 筆耕部長 水谷聖豊さん(56) 原稿を読み、小筆に墨をつけて一呼吸。最初の線が入ると、その後は機械のように一定の速度で紙の上に文字が並んでいく。賞状であれば、1枚平均120~150字前後。書ききるまでの30~40分は集中を切らさない。 賞状や招待状を筆で手書きする筆耕を請け負う東京・八丁堀の筆友社は、創業から半世紀を超える老舗だ。水谷さんは、同社で筆を握って30年になる。賞状から結婚式の招待状、席札、式次第など、様々な書面を毛筆で書き、お客さんに納めてきた。その枚数は賞状だけでも5万枚は下らない。 早くて美しいだけではなく、「原稿を読む力が人とは違う」(社長の鋪根〈しきね〉久美子さん)と評される。賞状などを書く際に欠かせないのが、「字配り」という工程だ。 原稿の流れを読み、キーワードとなる言葉が目立つ場所にくるようにしたり、熟語が切れないように改行の位置を試行錯誤したりして、最も美しいレイアウトを考える。三角定規をいくつも組み合わせて鉛筆で線を引きながら、ようやく全体像が見えてくる。「表彰される人にとっては一生の記念かもしれない。自分が書ける一番の字を常に心がけています」 母親のすすめで、小学1年の時には、近所にできた書道教室に通い始めた。箸を持つのもボールを投げるのも左手だった。鉛筆も左手で握っていた。利き腕でない右手で字を書くのはぎこちなく、書道教室に通うのもはじめは面倒だった。しかし、慣れると向上心が勝るようになり、筆の持ち方から徹底的に訓練した。筆の入れ方、止め方、はらい方。筆をどの角度にすれば、どんな線が書けるか。研究して上達すると、級や段位に表れるのが子ども心に楽しかった。 高校を卒業後、書道の専門学校に入った。研修を含めて4年間通った後に、迷いがなかったわけではない。芸術作品をつくる書道家になるか、需要が高まっていた筆耕者になるか。「結婚を決めていたこともあり、より堅実な道をと筆耕の世界に入りました」 結婚式場を運営する会社で2年、席札などを書く業務を経験した後、今の会社に入った。先輩たちの字が自分の好みに合っていたのが決め手だという。当時、数十人いた筆耕者たちの中で20代は自分だけで、「いろんな人の技術を盗みました」という。 同じ賞状でも得意先の好みや内容に応じて、微妙に書き分けることもある。太めの線でずしりとした重みを出す大相撲の表彰状。テレビ局が高視聴率を出した番組担当者に贈る表彰状は細めで読みやすく、情報をふんだんに盛り込む。「印刷では出せない付加価値を乗せるのがプロの仕事なので」 向上心は衰えない。車窓を眺めると、広告や看板につい目が向くという。限られたスペースに文字をどう配置するか。良い例があれば、仕事の参考にすることもある。 最近気にしているのが、次の元号だ。「『昭和』はバランスが難しかったけど、『平成』は比較的書きやすい。どんな文字になるのか、期待と不安が両方ありますね」(渡辺淳基) ◇ 〈みずたに・きよとし〉 埼玉県八潮市出身。書道の専門学校を卒業した後、結婚式場に2年間勤務。その後、1987年に筆友社に入った。それ以来31年間、同社で筆を握り続けている。 同じ小筆で感覚保つ 感覚を保つために、小筆はずっと同じものを使い続けている。1本の寿命は2週間ほど。何を書くにも小筆を使うため、どうしても早く消耗してしまうという。「細い線が書けなくなったら、交換時期です」 体のケア欠かさずに 数年前、突然右手の感覚がしっくりこなくなり、スランプに陥った。以来、定期的にマッサージに行くなど体のケアは欠かさず、できるだけ右手で重いものは持たなくした。商売道具の手を負傷するかもしれないし、筋肉痛になって手先が震えてしまうかもしれないと思うからだ。「利き腕は左なので、使い分けができるのだけは便利」という。 |
筆で手書きした賞状5万枚 プロの技、印刷と違う価値
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