広島県の山あいにある府中市民病院でこの8月、絵本と音楽の会があった。入院中のお年寄りや地域の子どもたち50人ほどが集まった。
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ギター演奏と歌が終わると、お話ボランティアの浅尾夕佳里(ゆかり)さん(55)が車いすを押されて前に出た。目をつむり、昔話を語り始めた。
《あるところに、お母さんと3人の息子があった。お母さんは病気で寝ていたが……》
両足と左手にマヒがある浅尾さんが絵本と出会ったのは、20代のころ。病状が進んで左半身の感覚が徐々になくなり、絶望しかけたときだった。
やさしい絵と言葉が心にしみた。大丈夫だよ、ここにいてもいいんだよと、言われている気がした。絵本を少しずつ読むようになり、子どもたちに読み聞かせる活動も始めた。
昨年秋、右足を骨折して入院した。リハビリが思うように進まず、不安ばかりが募った。座ることも難しくて絵本も読めない。しんどくて、友人に電話した。
翌日、友人が見舞いに来て、絵…