名古屋城天守木造化を巡り、木造化に反対する市民グループが河村たかし名古屋市長に事業停止などを求めた住民監査請求について、市監査委員は19日、意見が一致しなかったとして「合議不調」との結果を通知した。
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監査請求をしたのは、コンクリート製の現天守を耐震改修すべきだと主張する「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」(森晃代表)。名古屋市が施工業者の竹中工務店に基本設計の費用を支払った行為に、違法・不当な点があると主張している。
市は3月30日に竹中工務店から納品された書類を同日中に検査・確認して契約したが、監査委員4人のうち1人が「1日でできたとは到底考えられない」と主張。監査委員は住民監査請求について地方自治法で60日以内に結論を出すことが決められているが、期限の今月20日までにまとまらなかった。
一方、市民グループは、書類が文化庁の審理を受けていないため未完成だと主張していたが、監査委員は「文化庁の指摘や意見が全て出されなければ施工できないというものではない」と退けた。また「住民監査請求は財務会計行為が適法かどうかをみる制度で、事業の適否をみる制度ではない」として、事業を停止すべきかどうかの判断を示さなかった。
森代表は「一部の監査委員が判断を放棄したものと理解し、住民訴訟に移行する準備を整える。受け入れてくれた委員の主張は、司法の場において必ず支持されると確信している」とコメントした。
障害者団体は署名活動
名古屋城木造新天守へのエレベーター設置を目指す障害者らは、17日午後に名古屋・栄で署名活動を始めた。来年1月ごろに河村たかし名古屋市長に提出し、不設置の決定を撤回するよう求めるという。
木造化関連予算を支出させないよう市に求める住民監査請求の準備も進めてきたが、棄却された場合に起こす住民訴訟の態勢づくりが難しいため当面は見送る。代わりに県弁護士会に人権救済の申し立てをする方針という。
愛知県、財政支援「応じられない」
愛知県は名古屋市から求められた名古屋城の天守木造化計画への財政支援に「応じられない」と伝えていたことがわかった。県の担当者は「文化庁から許可が得られず、当初の計画から変わっている現状では検討に至らない」と説明している。
名古屋市は10月に文化庁から木造化の許可を得る予定だったが、申請書類を提出できず、目標の2022年末完成が危ぶまれている。
市は最大505億円の事業費を市債などで賄い、将来的に入場料収入で全額返す方針だ。だが市議会は、昨年3月に木造化予算を可決した際の付帯決議で、国や県の補助金などを含む財源確保を求めた。市は昨夏から県などに要望を始め、今月9日にも来年度予算を念頭に県の支援を求めたが、県は応じなかった。
今年6月に全面公開が始まった名古屋城本丸御殿の復元では、県は昨年度までの9年間に計約9億6千万円を補助している。県の担当者は「今回、市税を投入しないのに県税を使うのは県民の理解が得られない」とも説明する。市によると、国も同様の理由で難色を示しているという。
市の担当者は「木造復元は愛知県だけでなく、中部圏の観光の目玉だ。県の補助金が入れば利用料が下がり、県民に還元できる可能性もある。今後も理解してもらえるように要望を続けたい」と話している。(関兼次、堀川勝元)