ペットショップなどで販売される犬や猫の数が2017年度、のべ85万匹を超えました。犬猫の大量生産、大量販売が続いていますが、一方で現行の繁殖・販売業者の登録制度は事実上、「誰でもできる」状況です。朝日新聞の調査で実態が浮かび上がってきました。
「動物を飼って、多少の小遣い稼ぎになればいいかなと思い、始めました」
関東地方に住む60代の男性は数年前、勤務先を定年退職したのを機に猫の繁殖業を始めた。埼玉県内の競り市(ペットオークション)で雄1匹、雌2匹を購入して開業し、いまは約10匹の繁殖用猫を抱える。
競り市での落札価格が低調な夏場には生まれないよう交配時期を調整しつつ、年間20、30匹の子猫を出荷する。出荷価格は数年前の2、3倍になっていて、1匹あたり10万~15万円の値が付く。
猫ブームの恩恵を感じるといい、近隣で犬の繁殖をしていた業者が3年ほど前から「猫も始めた」とも聞く。ある大手ペットショップチェーンの推計では15年度時点で、繁殖業者の3割以上が「犬猫兼業」になっているという。
犬や猫の繁殖業やペットショップを営むには、都道府県などに登録を行う必要があるが、2年以内に狂犬病予防法違反で罰金刑以上を科された場合などを除き、原則、必要書類がそろっていれば拒否されることはない。そのうえ、朝日新聞の調査で、最低限の本人確認や実務経験などのチェックも、現場で機能していないことが分かってきた。
調査は昨年12月、ペットショップや繁殖業者など第1種動物取扱業者にかかわる事務を所管する都道府県、政令指定都市など計103自治体を対象に、登録手続きの実態などについて尋ね、全自治体から回答を得た。
まず登録の際、申請者の本人確認を義務づけているかどうか尋ねたところ、運転免許証や登記簿謄本などで確認を行っていた自治体は32にとどまった。11年には、栃木県から業務停止命令を出された猫の販売業者が、偽名で登録を行っていたことが発覚している。
また、事業所ごとに置かなければならない「動物取扱責任者」にも抜け道があった。動物取扱責任者になるには、「畜産学や獣医学を教える教育機関を卒業する」などの資格要件があるが、ペットショップなどでの半年以上の実務経験でもよいとされる。環境省の16年度の調査では、動物の販売業(繁殖業を含む)を営む事業所にいる動物取扱責任者のうち、7割にあたる1万1422人がこの実務経験で就任していた。
しかし今回の調査で、登録時に業者側が申告した実務経験について実態が疑わしい事例があるかどうか尋ねると、4自治体が「ある」とし、51自治体が「判断できない」とした。「ない」と断言できた自治体は半数以下の48自治体だった。
関東地方の中核市の担当者は「実務経験を証明する書類の提出を求めているが、書かれた内容に裏付けはない。A4用紙にワープロ打ちし、三文判が押してあるだけのものもある。ある特定のペット店が発行する証明書が不自然に多いのも事実」と証言する。
朝日新聞ではこの自治体に、昨年1月時点で保管されていた実務経験証明書について情報開示請求を行った。実務経験証明書は128枚提出されていた(廃業済みも含む)。そのうち1割以上にあたる17枚が、チェーン展開をしているわけでもない、隣県の「ある特定のペット店」での実務経験証明書だった。「記されている実務経験先で本人が働いていたか否かの確認は、一切していない」(市の担当者)という。
そもそも実務経験証明書の提出を義務づけていない自治体も七つあった。
加えて、調査への回答にこんな指摘をしてきた自治体もあった。
「実務に従事した施設により実務内容が異なり、必ずしも十分な経験が得られているとは限らない」(中国地方の県)
「期間の証明しか求めておらず、実施した内容を問うていない。(『実務経験』を動物取扱責任者の資格要件とする現行の制度を)廃止してほしい」(中部地方の政令指定都市)
環境省も、課題は認識している。特に動物取扱責任者の実務経験については、「『半年以上』といっても、週1回のアルバイトを6カ月やるだけでも要件を満たすのが実情。業務内容も問われない」と認め、「本来なら、動物取扱責任者が最低限持つべき知識や経験とは何なのか、整理しないといけない」(同省動物愛護管理室)とする。
猫の流通量、3年で4割近く増加
国内の犬や猫の流通量については、環境省が2009年に出した推計値しかなく、実態が不明だった。朝日新聞は、13年9月施行の改正動物愛護法で繁殖業者やペットショップに提出を義務づけた「犬猫等販売業者定期報告届出書」の集計値について、事務を所管する自治体に14年度分から調査している。最新の17年度分についても昨年12月、都道府県、政令指定都市など計103自治体に尋ね、すべての自治体から回答を得た。
17年度は、犬猫あわせた流通量はのべ85万7814匹と前年度より3・5%増加し、調査開始以来最多となった。特に00年代半ばからブームが続く猫の増加率が高く、同9・7%増えて18万1880匹だった。14年度(13万3554匹)から3年連続の増加で、猫の流通量は3年で4割近く増えた計算になる。犬は67万5934匹で同1・9%増。
一方で、繁殖から小売りまでの流通過程で死亡した数は犬で1万8792匹、猫で5679匹に上った。これは流通量全体の約3%にあたり、14年度から改善が見られない。犬では同じ17年度の全国の自治体による殺処分数(8711匹、負傷動物を含む)を大きく上回った。なお、環境省動物愛護管理室によると、死亡数には原則、死産は含まれないという。(太田匡彦)