フォームが美しすぎる――。日本モンキーセンター(愛知県犬山市)の飼育員が、サルの仲間「アヌビスヒヒ」にバケツで一度に10キロ分のエサを投げ与える動画が人気だ。「美しさ」が狙いではない。「地味で人気がない」というヒヒへの愛が、「ナイススロー」の陰に隠れている。
4日昼、ヒヒ舎の前に飼育員が姿を見せると、アヌビスヒヒ約80頭が辺りをぐるぐるとまわり始めた。
「食事だと分かっているんです。いす取りゲームですよ。イモを確保しやすいよう動いているんです」
そう語る担当飼育員の石田崇斗(しゅうと)さん(25)が、約10キロのバケツを持ち上げた。「行くよ」とつぶやく。後ろに腕を引き、ひと息に放る。扇状に散っていくイモ。足もとに落ちると、アヌビスヒヒが群がった。リンゴを入れた残りのバケツもテンポ良く、空になる。
食事は朝昼夕の1日3回。1回につき、30~60キロを与えている。
「ケンカにならないよう素早く全頭に届ける必要があります。10キロのバケツを四つ抱えて運び、全力で振り抜くにはパワーが必要です」。1月下旬、この餌やりを飼育主任の鏡味芳宏さん(37)がツイッターの日本モンキーセンター公式アカウントで動画とともに投稿した。
飼育員の仕事の裏側や大変さを知ってもらうつもりだったが、その「投法」に反響が相次いだ。「美しい」「右から左まで餌の量がほぼ均等。プロフェッショナルだ」「ドラフト1位の肩」――。ツイートは2万4千回以上転載され、動画の再生回数は130万を超えている。
飼育員の間で10年以上続く投法だが、「けんか防止」だけが目的ではない。
飼育員はエサをやりながら個体の健康状態も見ている。「調子は悪くないか」「妊娠していないか」。餌を手に動くヒヒをチェックしている。
■「自分の子のようにかわ…