来年の東京五輪に向けて、日本の各競技団体は強化に力を入れている。たとえば日本サッカー協会は、五輪に向けたチーム活動費として2019年度予算で男女合計約3億円(監督らの人件費を除く)を計上した。ところが、その2倍以上の巨額の予算を使ってメダル獲得を目指している競技がある。88年ぶりのメダルを狙う馬術だ。
東京オリンピック2020
日本馬術連盟は、17年度から日本中央競馬会(JRA)を財源にした「東京2020馬術競技強化対策事業補助金」をもとに、メダルが期待される総合馬術と障害飛越で、国際舞台で実績のある馬の購入費などに充てている。予算額は17年度(3次補正)は7億8780万円。18年度では8億7520万円。連盟の木口明信常務理事は「五輪のメダルで馬術をマイナー競技から浮上させたい。東京五輪をゴールではなく、日本の馬術のスタートにしたい」と話す。
総合馬術では、16年リオデジャネイロ五輪団体でフランスの金メダルに貢献した「バートエル」(13歳)や、18年9月の世界選手権でフランス代表として7位に入った「ヴィンチ・デラヴィンニュ」(10歳)など4頭を購入した。
移籍によって出場国が変わる馬は、20年1月15日までに国際連盟に登録すれば東京五輪に出場できる。つまり他国から実力馬の「引き抜き」が可能。日本はリオ五輪総合個人で20位になった大岩義明が、移籍後に改名した「バートエルJRA」に乗って表彰台を狙う。
中東の台頭で馬の価格高騰
昨年の世界選手権で、大岩らの日本は団体戦で4位だった。3日間の競技を戦い抜くには馬の体調が重要だが、大会では大岩が騎乗しようとしたリオ五輪出場の馬が不調で、急きょ代わりの馬を起用した。東京五輪では優秀な馬の選択肢を増やして万全の体制にする。
障害飛越では、9歳から12歳の比較的若い馬を7頭購入した。潤沢な資金力を持つ中東諸国の台頭で、障害馬術の馬は値段が高騰しており、1頭10億円を超えることもある。五輪が近づくとさらに値段が上がる。
木口常務理事によると、日本が狙っていたドイツ産の馬が12億円以上になり、「農林水産省の外郭団体のJRAが承認できる金額ではない」と判断してあきらめたこともあるという。日本は費用を抑えるため、実績はなくても将来性のある馬を多めに選び、共同馬主として保有する戦略を取っている。
17年度と18年度で連盟が購入した馬は計14頭だ。障害飛越が7頭、総合馬術は4頭に加えて訓練馬も3頭。17年度は、購入した9頭の購入費用が計4億円余り。その他の強化費と合わせて約5億6千万円を東京五輪に向けた強化事業費として実際に使用した。
残りの約2億3千万円は、好成績を収めた時に支払う「報奨金」などとして予算に組み込まれていたもので、成績が達成されず使われなかったため、JRAに返還した。18年度の決算は、今年5月ごろの総会で公表される。(忠鉢信一)
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〈五輪の馬術〉 演技の美しさなどを競う「馬場」と障害物を越える速さなどを競う「障害」、この2種目に自然に近い地形を走るクロスカントリーを加えた3種目で競う「総合」がある。東京五輪では各種目に個人戦と団体戦がある。日本は1932年ロサンゼルス五輪で西竹一が障害個人で金メダルに輝いた歴史を持つ。