「赤毛のアン」の翻訳者の村岡花子の母校で知られ、キリスト教に基づく教育を掲げる東洋英和女学院(東京都)のトップが懲戒解雇された。著作に引用するため、架空の神学者や論文を捏造(ねつぞう)し、研究者や学内の調査委員会に対する説明も二転三転させた。
架空論文に浮かんだ3人のレーフラー 記者が謎に迫った
東洋英和女学院院長に研究不正疑い 引用論文存在せず?
副学長、厳しい言葉で指弾
「でっちあげ」。10日に同学院が開いた会見では、調査委員長の佐藤智美・東洋英和女学院大学副学長が深井智朗氏の不正行為について厳しい言葉で指弾した。
「実在しない人物や論文及び借用書から捏造」「根拠なく結論が導き出された」――。人文系の研究不正では異例の捏造行為について、調査結果でも「極めて悪質」と切り捨てた。
問題となった「ヴァイマールの聖なる政治的精神」は、近代ドイツの神学を政治や社会との関係から描いた本。そこで引用した論文とその著者について、調査委はその双方が存在することを示す資料を求めた。しかし深井氏は、どちらも裏付ける資料を出せなかった。
また調査委は深井氏の「立証妨害」も認定した。深井氏の説明は揺れ動き、そのたびに確認に追われたという。雑誌「図書」に掲載された論考は、神学者の家の借用書や領収書とされる資料に基づくとされていた。ところが、深井氏が提出した8枚の資料を調べると、別の神学者が書いた議事録と判明した。
学院の外にも波紋が広がっている。「ヴァイマールの聖なる政治的精神」の版元の岩波書店はすでに出荷を停止。「図書」での訂正・おわびの掲載については「報告書を精査してから対応したい」としている。
深井氏は、今回の調査対象とは別の著書「プロテスタンティズム」(中公新書)で、昨年、読売・吉野作造賞を受賞している。主催する読売新聞グループ本社広報部は「受賞作については、不正疑惑の発覚後、研究者2人に内容の精査を依頼するなど慎重に調査を進めてきました。今後、外部有識者らによる選考委員会で受賞の取り扱いを検討します」とコメントを出した。(磯村健太郎、宮田裕介)
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