働く高齢者の労働災害(労災)が増えている。2018年に労災に遭った60歳以上の働き手は前年よりも10・7%増え、労災全体の4分の1を占めた。政府は70歳までの雇用の確保を努力義務として企業に課す方針を打ち出したが、高齢者が安心して働ける職場づくりが課題として浮かび上がる。
2ミリの段差、大きな危険 高齢者働く職場、転倒対策は
厚生労働省が17日発表した18年の労災発生件数は前年比5・7%増の12万7329人だった。このうち60歳以上は3万3246人と、全体の26・1%に達した。10年前の08年は18・0%だった。
高齢者の労災が増えているのは、65歳までの定年延長や全国的な人手不足を背景に、働く高齢者が増えているからだ。65歳以上の働き手は10年前より309万人増えて875万人に達し、労働力人口全体(6830万人)の12・8%を占める。
年齢を重ねるとともに、視力や握力、バランス保持能力といった身体機能が低下していくにつれ、仕事中にけがをしたり、事故に遭ったりしやすくなる。役員を除く雇用者1千人あたりの労災件数は、20代が1・6件なのに対し、60歳以上は3・8件と2倍以上の水準だ。
なかでも目立つのが転倒事故だ。全世代では労災全体の25%が転倒によるものだが、60歳以上に限れば37・8%を占める。50代(30・3%)と比べても7・5ポイント高い。
男女別でみると、転倒事故の割合は10~40代までは男性の方が高いが、50代以上は女性の割合が高くなる。厚労省の担当者は「骨が弱くなりがちな高齢女性が転倒して骨折し、長期の休業につながるケースが多いのではないか」と分析する。
「一億総活躍」を掲げる政府は15日、希望する人が70歳まで働ける機会の確保を企業の努力義務とする方針を示した。来年の通常国会に高年齢者雇用安定法改正案を提出する考えだ。
かつては「定年退職後は年金で悠々自適」というのが老後のイメージだったが、今では危険と隣り合わせで働く高齢者も少なくない。脇田滋・龍谷大名誉教授(労働法)は「ただでさえ高齢で健康や家計に不安を抱えながら働かざるを得ない人も多い。『生涯現役』というなら、労災を予防する取り組みが企業側に求められる」と話す。(滝沢卓、内山修)