半導体大手の東芝メモリが、東芝から独立して1日で1年を迎える。6月にも上場申請の手続きを始め、最短で年内の上場を目指しているが、足元では主力商品の市況が悪化している。関係者は「日の丸半導体」の成長に期待を寄せるが、懸念材料も山積している。
「東芝メモリと手を携える」 WD小池社長一問一答
「日の丸半導体」東芝メモリが直面する新たな課題は
東芝メモリは31日、日本政策投資銀行から3千億円の出資と、メガバンク3行から計9千億円の融資を受ける契約を結んだと発表した。この資金を元手に、取引先のアップルなど米IT4社から保有株を買い取る方針だ。4社が株主になっている点が上場審査で問題視される可能性があるが、保有株を買い取れば上場に向けた障害がなくなり、「6月にも上場申請を始められる」(金融関係者)。
データの記録に使われる主力商品のNAND型フラッシュメモリーは、韓国サムスン電子に次ぐ世界第2位のシェアを持つが、毎年数千億円の投資を必要とするため、上場で資金を調達しやすくする。
大容量のデータを大量に送受信できる次世代通信規格「5G」のサービスが本格化すれば、NAND型メモリーの需要拡大が見込める。データセンターや車の自動運転、工場の自動化など用途は幅広く、「マーケットは相当広がっていく」(幹部)と期待するが、データサーバーへの投資の停滞や各社の過剰生産の影響で足元では値崩れが続く。2019年3月期決算は、純利益が91・6%減の605億円と大幅減益を強いられた。
24年3月期の売上高を19年3月期に比べて7割増の約2兆1千億円、営業利益は5倍の約6千億円に伸ばす強気の計画を立てるが、NAND型メモリーの市場環境は厳しい。調査会社IHSマークイットは、需要は右肩上がりで伸びるものの、技術革新などで価格下落が続くため、総売上高は横ばいが続くと予測する。
安全保障にもかかわる国内半導体メーカーの浮沈には政府の関心も高い。米投資ファンドのベインキャピタルが率いる「日米韓連合」への売却交渉では、「非常に重要な技術を有する企業」(世耕弘成経済産業相)だとして菅義偉官房長官ら政権幹部や経産省幹部も介入したが、東芝メモリの読み通りに需要が伸びるかは不透明だ。米中貿易摩擦や中国の景気減速などの逆風も気がかりだ。金融関係者によると、上場時に株式を分割する案も出ている。「半導体の市況は変動が大きく、機関投資家が保有しにくいので、個人投資家に買ってもらいやすくする」狙いとという。
かつて世界を席巻した汎用(はんよう)メモリーのDRAMは海外勢に市場を奪われ、「日の丸半導体」の落日を印象づけた。経産省の主導で生まれた「日の丸液晶」メーカーのジャパンディスプレイ(JDI)も債務超過寸前の経営難に陥っている。東芝メモリ関係者は「ここで投資を緩めると、次の回復局面で遅れてしまう」と気を引き締める。(高橋諒子、小出大貴、笹井継夫)