朝日新聞デジタルのアンケートを通じて、ペットとの出会い方が多様化している実態が浮かびました。飼い主自身の状況や、犬や猫に何を求めるかによっても、選択肢は変わってきます。「飼わない」という決断をする人もいます。ペットとの出会いはどうなっていくのか、ペットをめぐる環境は改善されるのか。さらに探ってみました。
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横浜市に住む主婦、小山ちずるさん(56)は昨年4月、愛犬をがんで亡くしました。雄の柴犬(しばいぬ)で名前はハル。10歳3カ月でした。
2008年春、一人娘が大学に進学するのを機に家族で話し合い、犬を迎えることにしたそうです。飼うのは柴犬と決めていて、近所のペットショップでハルに出会いました。
ハルは散歩が大好き。小山さんは雨の日も雪の日も、台風が来ても、散歩に出かけました。好物はリンゴ。皮をむくサクッという音で気付き、あげるとおいしそうにシャクシャクと音をたてながら食べました。
ところが17年秋、耳の扁平(へんぺい)上皮がんが見つかりました。あごの骨まで転移していて、手術はできませんでした。小山さんはそれから1日おきに、弱ったハルを自転車の後ろに乗せるなどして、補液や薬剤投与のために動物病院に通い続けました。獣医師から「年を越せないかも」と言われていましたが、ハルは翌年4月まで生きました。18年4月29日夜、小山さんがお風呂から出ると、ハルがはっきり「ワン」と鳴きました。ヨロヨロと立ち上がってもう一度「ワン」と鳴き、ずるりと倒れ、そのまま息を引き取ったそうです。
去年まではハルと一緒に見ていた桜が、今年もまた咲きました。その桜の下をひとりで通る時、涙が止まりませんでした。
「ハルと散歩した道を歩いていると、もう一度、犬と生活をしたいと思う時があります。でも私たち夫婦の年齢を考えると、新しい犬を家族に迎えるのはもう無理です」
ハルを飼い始めた時には45歳だった小山さんはいま56歳。夫は66歳。犬猫の寿命は、獣医療の発達や栄養バランスに優れたペットフードの普及、室内飼育の推進などにより延びています。1980年代までは大半の犬が10歳以下で死んでいたというデータがありますが、ペットフード協会の調査によると、18年時点で犬の平均寿命は14・29歳、猫の平均寿命は15・32歳になっています。小山さんがこれから子犬・子猫を飼えば、その子が最期を迎える頃には70代と80代の夫婦になっています。
また、がんを患ったハルの生涯獣医療費は総額200万円ほどに達したそうです。それだけの金額を、これから新たに用意できるかどうかもわかりません。犬や猫をみとるまでの闘病期には、飼い主の体力も必要になります。
いつもハルがくつろいでいた、リビングの南側に面した大きな窓のあたりを見つめながら、小山さんはこう話します。
「ハルにしてあげられたことを、次の犬にしてあげる自信はありません。飼い主が元気でなければ、犬を幸せにしてあげられません。犬を飼うということは、命を預かるということなんです」
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今回、およそ1カ月にわたって行った朝日新聞デジタルのアンケートで「犬や猫を飼うにあたり、ためらったり悩んだりすることは何ですか?」と尋ねると、37・7%の人が「自分の年齢(寿命)」をあげていました。
朝日新聞が昨年12月、動物愛護行政を所管する全国の都道府県、政令指定都市、中核市のすべて121自治体を対象に調べたところ、17年度には、少なくとも犬で1299匹(件)、猫で2359匹(件)が「高齢者から、または高齢が原因と見られる理由」で捨てられていました(10自治体は理由未集計。16自治体は件数で回答。4自治体は17年度は引き取り業務無し)。飼い主の寿命や健康が、犬猫の寿命の延びに対応しきれず、不幸な別れが数多く発生している実態があることが分かります。
悪質業者に教育機会を ペットパーク流通協会長 上原勝三さん
子犬・子猫のオークション(競り市)である「関東ペットパーク」を立ち上げたのは1995年です。マスコミが火を付けたペットブームにより、ペットを飼うことが「当たり前」の時代になりつつありました。小売店で、10万~20万円の単価で数が売れる商品というのはなかなかなく、ホームセンターや百貨店などがこぞってペットショップをテナントに入れるようになっていました。
いまではブリーダー(繁殖業者)、オークション、ペットショップの3者による、日本独特の生体販売のシステムができあがっています。
この中で問題を起こしているのは多くの場合、2000年代半ば以降、オークションでの取引価格がそれまでの倍程度に上がり始めたのを見て新規参入してきたブリーダーの限られた一部です。限られたスペースの中でなるべく多くの子犬・子猫をつくろうとし、何段にも重ねたケージの中で劣悪な飼育をしています。犬猫を適正に飼育するための勉強や取り組みを、自発的にはしようとしません。
こうした問題業者への対応は、これまで作り上げてきた、日本独特の生体販売システムの中でこそ解決できます。ブリーダーは横のつながりが希薄なので、特にオークションが果たす役割は大きいです。14年に14カ所のオークションで「ペットパーク流通協会」を立ち上げ、状況改善に取り組んでいます。
私のところでは、保険会社やペットフード会社、製薬会社などの協力を得て、出入りするブリーダーに勉強する機会を提供し、遺伝性疾患や感染症への対策ができているかどうかチェックしています。また、ケージに入れっぱなしではなく、犬や猫が自由に動き回れるように「平飼い」するほうが、繁殖効率が上がることなども教えています。平飼い飼育をしているブリーダーが出品する子犬・子猫のほうが発育や質がよいため、明らかにオークションでの評価が高く、いい価格がつきやすいことも伝えます。問題業者を排除するのではなくあえて受け入れ、オークションが教育機能を担うのです。この数年でブリーダー全体の質はかなり向上した自負があります。
ただ、いまのやり方が未来永劫(えいごう)続くとは思っていません。業界全体として、さらに変わっていく努力をしないといけません。求めるものを、量から質へと転換していくことが何より必要です。
飼い主、選び育てる責任 料理研究家 藤野真紀子さん
いま69歳。これから子犬を飼い始めていいものかどうか、たいへん迷いました。でもこれまで長く、ジャーマンシェパードという犬にこだわってきて、「人生最後の犬」としてルイを迎えました。我が家のシェパードとしては3代目になります。
ルイは、トレーナーもやっているブリーダーさんから譲ってもらいました。この年齢で飼い始めるので、重視したのは毛色や姿形の美しさではなく、性格です。そのため、ブリーダーさんのもとにいる両親犬を徹底的に見ました。母犬はフレンドリー、父犬はおだやかという性格を確認し、さらに祖父母の代の性格まで聞き取りました。そうして、9匹生まれた中で、一番おっとりした性格のルイを迎えると決めました。
「生まれた」と聞いた日から、週1回のペースでブリーダーさんのもとに通いました。そこで母犬、きょうだい犬、ほかの犬たちと社会化していく様子を確認しました。また、私自身も含めてブリーダーさんのところに出入りしている人間たちとも、しっかりふれ合わせてもらいました。そうして昨年夏、12週齢でルイは我が家にやってきました。
うちに来てからは、定期的にトレーニングに通っています。ここまでやってはじめて、犬、とくに大型犬は、人間社会のなかで幸せに生きられるのだと思います。ルイは穏やかで優しいシェパードに育ってくれていますが、そう育てることが、飼い主の責任の一つなのです。
いまルイのほかに、2匹の保護犬を含め計6匹と暮らしています。女性の平均寿命は87・26歳(2017年、厚生労働省調べ)。私も85歳までは元気に生きるつもりですが今回、娘とも話し合いました。私に何かあったときには、娘が必ず犬たちを引き取り、面倒を見てくれることになっています。
シニアに必要 ■保護犬募金
朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●家族の一員探すつもりで
ペットと出会う前に一緒に過ごせる住環境か飼える状況かをおのおのが考えなければならないと思います。大げさな言い方ですが、家族の一員を探すつもりで飼うこと。ペットの一生に責任を持てるか、自覚を持って、飼うべきだと思います。ペットも人間と同じなんです。(大阪府・30代女性)
●死別のショック消えず
1年半前にチワワ(雄18歳6カ月)を亡くしました。いまだ、死別のショックが消えません。この18年6カ月は、本当に癒やされました。ありがとう、ラブちゃん。感謝、感謝です。最近、ペットショップをのぞきますが、飼う勇気が湧きません。いつか、出会いがあるといいなぁ。(兵庫県・60代男性)
●年をとってからこそ必要
私58歳夫68歳。昨年保護犬だった犬を亡くしまた迎えたいが後見人もなし。老犬なら飼えるか? 近所の方は施設から断られ店で犬を購入した。これでは何もならない。年をとってからこそペットは必要、どうにかならないものか。(神奈川県・50代女性)
●保護犬の散歩ボランティア
愛犬を老齢で亡くしましたが最期までみとれホッとした感もあります。今は保護犬の散歩ボランティアをしています。自宅に引き取りたくもありますが家族の健康上の心配もありしばらくは他の方とシェアと継続募金の形で行こうと思っています。(神奈川県・60代女性)
●条件の多さに気後れ
15年一緒に暮らした愛犬が亡くなり、新しい子をできれば保護団体から迎えたいと考えていますが、厳しい審査が必須な場合が多く、なかなか行動できずにいます。引き取る際の条件の多さに気後れして、結果としてペットショップを選んでしまうことも多いのではないでしょうか。また、一番問題なのは、現在のペットショップ業界で衝動買いが許されていることだと思います。(福島県・20代女性)
●動物の年齢に制限を
飼い主の死後、飼い手がなくなるというリスクがあるのは理解できるが、犬、猫をアダプトする条件に、年齢制限を設けている団体や店があるのは、日本だけだと思う。お年寄りも、動物との生活によって得られる効果は高いのだし、年齢制限があると、動物はアダプトされるチャンスが減って、殺処分される確率が高くなるのだから、シニア層には「動物の年齢枠に制限をする」「アダプト後、譲った団体が動物の様子を見に訪れる」などの条件に変更し、より多くの人々の生活に、動物がとけ込むように考慮した方が良いと思う。(海外・40代女性)
●ショップの展示は虐待では
ブリーダーから犬を迎えることを知らなかった頃は、ペットショップで迎えてみたが、パピーはおなかに虫がいたり、下痢ばかりして、1年近く病院ばかり通っていました。その後、いろいろ情報を得られるようになり、ブリーダーから迎えた子は皆元気に大きく育っています。ショップの子は、どういう親からいつ離されたのかも不明であること、ショップでの展示のストレスを考えるとそれも虐待ではないかと思っています。(東京都・50代女性)
●最初で最後のパートナー
保護犬を飼いたいと思いましたが、単身で会社勤めだと保護団体からの譲渡はまず門前払いのため、ペットショップからの購入となりました。自分の年齢や病気もあり、この子が最初で最後のパートナーだろうと感じています。(京都府・50代女性)
●一番の問題は飼い主
現在の犬猫の問題に関して殺処分自体は減ってきていますが根本的な問題解決が必要だと思います。業者の規制も必要です。それは商売をする上で当然のことかと思います。そして一番の問題は飼い主です。多頭飼育崩壊、高齢者による飼育不可など社会的な問題になってきていると思います。(北海道・50代男性)
●優良ブリーダーは残って
ペットショップなどでの販売には反対です。でも、優良なブリーダーには残ってほしい。今、飼い主のいない犬や猫を無くし、殺処分を無くそうとの努力がなされていますが、それは早く実現してほしいので、屋外繁殖がなされない活動と、保護犬猫を家庭に迎える活動がより進むことを望みます。(三重県・60代女性)
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私がペットビジネスに関する取材を始めたのは2008年のこと。その頃に比べると、一部の大手ペットショップチェーン経営者らの意識はだいぶん変わってきたように思います。動物愛護の機運の高まりや消費者からの厳しいまなざしを受け、ビジネスのあり方について、変革を求められているからです。
ただ、日本で発展した、ペットショップチェーンを中心に据えた生体販売ビジネスは、大量生産・大量販売をベースに成り立っています。このため、繁殖に使われる犬や猫、流通に乗る子犬や子猫が工業製品のように見なされ、モノ扱いされる宿命からは逃れられません。
こうした中で、朝日新聞がペットショップや繁殖業者など第1種動物取扱業に関する事務を所管する自治体すべてに調査したところ、14年度以降毎年、繁殖から流通・小売りに至る過程で約2万4千匹もの犬猫が死んでいることがわかっています(死産を含まず)。また、17年度、行政による殺処分数は5万1495匹にのぼっています(負傷動物を含む)。
一方で近年、捨てられるなどして飼い主がいない犬猫を、動物愛護団体などから引き取る動きが、確実に広がってきています。アンケートで「これから新たに犬または猫を飼うとしたら」との問いに、「動物愛護団体・地方自治体から」譲り受けたいと答えた人が多くを占めたのは印象的でした。
犬や猫などペットとの暮らしは、私たちに大きな幸せを与えてくれます。でも与えてもらうばかりでいいのでしょうか? 飼い主として、消費者として「出会い方」を考えてみることは、日本のペットを巡る環境を改善する第一歩になるはずです。(専門記者・太田匡彦)
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