(撮影・潘浩。「南寧日報」に掲載)
新型コロナウイルスによる感染症の打撃を受けて、中国人は慣れ親しんだ生活スタイルから急速に離れつつある。感染症がもたらしたのは衛生や防疫をめぐる特殊な状況だけでなく、たくさんの新しい事物が人々の生活に入り込み、生活の一部になった。ポストコロナ時代に、新しい事物は中国人の暮らしを定義し直すことになる可能性がある。
人間関係が調整され 安全意識が高まる
「感染症の流行中には握手をしません」。これは瀋陽のある医療系企業営業職の張鋭さんが最近最もよく口にする言葉だ。「今はお客様とめったに握手をすることはなく、基本的に拱手の礼(両手を合わせる礼)に変わった。安全だし礼儀正しい感じがする」という。
テーブルを囲んでみんなで食事をするのも、中国人の長年の習慣だ。感染症の襲来で、安全や衛生への配慮から、一人分ずつ配膳するスタイルが再び脚光を浴びるようになった。現在では北京、上海、西安など複数の地域で取り分け制や、みんなで取りわけ用はしを使うこと、各自に取りわけ用はしを配ることなどが提唱され、一部の省や市は取り分け制の地方標準を打ち出した。
杭州のインターネット企業に勤める趙明さんは、「感染症が自分にもたらした一番大きな変化は、出張や移動で安全性にもっと注意するようになったことだ。仕事が再開すると、しばしば出張の機会があり、ホテルを予約する時は新しい『安全標準』として、独立したエアコン、非接触サービス、定期的な消毒などを求めるようになった。少しくらい多めにお金を払っても、独立したエアコンのある部屋に泊まりたい」と話した。
中国の大手オンライン旅行予約プラットフォームのQunar.Comの勾志鵬社長は、「感染症の影響で、『価格に敏感』なお客様の多くが、『安全に敏感』なお客様に変わりつつある。当社のデータによると、2月にプラットフォームで『安心して泊まれる』ホテルを打ち出したところ、急速にホテル予約の中心になり、予約数の80%を占めるようになっただけでなく、6週間連続で2けたの伸びを達成した。こうした変化は公共交通の分野でも起きている。今年3月には、旅客の密度の低いビジネスクラスやファーストクラスの予約件数が2月より46%増加し、ビジネスクラスの34%を上回った」と述べた。
生活習慣が変わり 健康への意識も高まる
現在、感染症は落ち着いているが、公共の場や営業スポットの多くで、人々はまだマスクを着用している。感染症を経て、マスクは1種の習慣になり、多くの人がマスクはカギや携帯電話と同じような必需品と考えるようになった。また多くの家庭がハンドソープや消毒液を常備するようになった。
感染症で家にいるため、多くの人が「やむを得ず」家で食事を作るようになり、次第に食事作りが「好きになり」、家の中が温かさで包まれるようになった。料理の腕前が飛躍的に上達した人も多く、家で食事を作るのはなんと面白いことなのかと気づいた。また多くの人が健康的な食生活に注意するようになった。民間企業を経営する呂さんは、これまでは会食の機会が多く、アルコールもよく飲み、体重オーバーで、健康診断の数値はずっと高止まりしていた。だが感染症が発生してから、外出もつきあいも減り、家で食事をする機会が増え、体の調子がすごくよくなったと感じている。「今はビジネスの相談も、お茶を飲むだけで、食事や飲酒を減らしても、みなさんもよく理解してくれる」という。
感染症の流行中には、すべての人が外出を減らすよう余儀なくされ、このことが人々の、特に若い人々の日常の飲食、生活時間などの習慣を変えた。データによると、調査回答者の36.7%が、「おいしい食事を作ること」を絶好の暇つぶしにし、男性はより意欲的で、調理時間が女性より3.5%長かった。職業分布をみると、政府機関や事業機関に勤める回答者は食事作りにより意欲的だった。感染症により、90後(1990年代生まれ)が健康や衛生に気をつけるようになり、回答者の32%が「体を鍛えることを重視するようになった」と言い、26-28歳の若い人は主体的な意欲が高く、87.6%が「自分の衛生に気を配っている」、56.7%が「早寝早起きをしている」と答えた。「決まった時間に熱を測る」という需要について、男性が女性より4.2ポイント多かった。
インターネットとオンライン生活が拡張
感染症の打撃を受けて、中国人は慣れ親しんだ生活スタイルから急速に離れつつあり、これに取って代わったのはインターネットのプラットフォームやネットショッピングのアプリに高度に依存した新しい生活スタイルだ。感染症が広がる前にも、人々はオンライン生活に慣れ親しんでいた。しかし感染症がインターネットとオンライン生活を加速的に拡張したことは確かで、これまでネットショッピングやネットによるライブ配信に様子見の態度を取っていた中高年も、オンライン生活の構築に喜んで加わるようになった。ここから予想できるのは、感染症がもたらしたオンライン生活の加速的拡張が、感染症の後でも当たり前になることだ。人々の間でインターネットを介した交流の機会が増え、インターネットが有形にも無形にも人々を結びつけてオンライン共同体を形成することが予想される。
感染症の中で、教師達も釘釘やZoom、テンセントミーティング(騰訊会議)のライブ配信をマスターした。このようなライブ配信やオンライン会議のアプリは教育や会議にも導入され、さらには日常的な事務処理にも利用されるようになった。人々は家に中にいて、自宅で仕事をするのとオフィスや教室で仕事をするのはそれほど変わらない、場所が自宅に変わっただけだということに気がついた。大学では、各地の学生が全国どこにいても、海外にいても、同じ教員の講義を聴けるようになった。ここからわかるのは、インターネットを利用すれば、地理的に近くにいる必要はなくなり、どんなに離れていても仕事の交流や会議、教育ができるということだ。あるいは、テンセントミーティングやZoomのようなソフトウェアが新たな地理学を興しつつあるのかもしれない。デジタルネットワークとブロードバンドを根幹としたオンライン地理学というジャンルだ。
消費習慣の変化 「リベンジ的貯蓄」が「無計画な消費」に代わる
感染症はビジネスシステムにキャッシュフローの重要性を教え、同じように若い人にも貯蓄の重要性を教えた。
感染症の影響で、90後の消費意識に「後退トレンド」がみられるようになった。世界的ビッグブランドをひたすらに追い求めることはなくなり、特色あるものや体験をより重視し、個性的でニッチなブランドを好み、コストパフォーマンスに関心を払うようになった。調査データによれば、資産運用計画について、78.1%が「法則性がある貯蓄」を選び、45.1%が「中国国産ブランドを選ぶ傾向がある」と答え、「家や車を買うことを検討中」は11.1%にとどまった。「リベンジ的消費」より、「リベンジ的貯蓄」こそ多くの人々の共通認識だ。また「感染症が落ち着いた後の計画」では、「集まって食事や旅行をする」、「仕事で遅れた分を取り戻す」、「すぐに遊びに行く」が並んだ。
感染症の中、長い時間家にいる暮らしは人間関係を再構築することにもなった。
感染症の流行中、趙さんは一人暮らしの母親を家に呼んで一緒に暮らすようになった。普段は仕事や日々の暮らしに追われて、1-2週間に1回くらいしか子どもを連れて母親のところには行けなかった。趙さんは、「感染症で外出できなくなり、親を呼んで一緒に暮らし、世話をするのが便利だから。親と一緒に生活すると、ずいぶん楽しくなった」と話した。
普段は仕事が忙しく子どもを構うことができない親たちも、感染症で子どもとの関わりや交流の時間が増えた。親子の理解がお互いに深まり、親子関係が注目の話題にもなった。より親しくなった親子もあれば、問題が起きた親子もある。
変化が起きたのは家族の関係だけではない。ご近所との関係にもひそかに変化が起きている。現代の都市生活では、隣同士でも接触する機会は少なく、普段は階段やエレベーターで顔を合わせると会釈するくらいのあいさつだった。しかし感染症の流行中には、同じ建物や同じコミュニティの人々が微信(WeChat)のグループで状況を把握するようになったり、消毒液の注文をまとめてするようになったり、野菜や日用品などを共同購入するようになったりした。こうした新しいご近所づきあいが、人と人との距離をぐっと縮めた。
感染症は危機ではあるが、それがもたらすチャンスと希望も見なければならない。感染症の後には、これまで親しんできた生活スタイルが歴史になり、5G基地局、ビッグデータセンターなどの新インフラの建設が推進されるのにともなって、感染症という特殊な状況の中で構築された新しい生活スタイルがこれから主流になるのを、私たちは徐々に目にするようになるのかもしれない。(編集KS)
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「人民網日本語版」2020年5月12日