「真剣に要望は聞いてもらった。でも、これからが本番です」。尾辻秀久・厚生労働相が16日、アスベスト(石綿)関連がんの中皮腫患者らの声に初めて耳を傾けた。患者らは治療や労災認定時の厳しい現状を知ってもらったと受け止めた。しかし、政府の石綿被害の救済法案では、石綿被害の特殊事情で労災補償の時効になった休業補償や治療費については切り捨てる方向性が、既に伝えられている。面談した「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会関西支部」(大阪市、世話人・中村実寛さんら)は「時効問題の内容自体をよく理解してもらった」と今後の対応に大きな期待を寄せた。【大島秀利】
中皮腫や肺がんは、石綿を吸い込んでから20~50年たって発症するため、原因になかなか思い当たらないケースがほとんど。ところが、労災認定の申請の時効は、休業補償や治療費などは2年、遺族補償が死後5年と、他の疾病やけがと一律で、気付かずに時効を過ぎてしまう人が大半だ。全国の支援団体が把握しただけでも、今年7月以降の相談は約100件が時効と判明した。
救済法案では遺族補償の時効分については救済するとしたが、それ以外は対象外と厚労省の担当者は説明してきた。しかし、休業補償は、例えば年収500万円の人が、4年間休んだ後、亡くなった場合、約1600万円となるなど家計を大きく左右する額。治療費も含め、患者家族らの家計に重くのしかかる問題だけに、関係者の要望は強い。
同支部は「時効問題は今のままでは被害者の要望に反し不完全救済になると訴えたのに対し、大臣は元々関心を持っていたそうで、まじめにしっかりやって結論を出すと言った」と英断に期待。尾辻厚労相は記者団に「新法を作るに当たっては真剣に検討します」と前向きに取り組む姿勢を示した。