はじめのうち私は、なぜこのようなことをするに至ったのかが、よくわかりませんでした。私であれば、リストと原本を1人で1件ずつ照合して、しるしをつけていけばいいだけで、もしその作業にもう1人費やしてもいいのであれば、そのもう1人にも同じ作業をしてもらい、ダブルチェックすればそれで済む話だと思ったのです。
その場では、「私の言った通りのチェック方法で十分だと思います」ということで、やり方を変えたのですが、私のなかでもやもやしたものが消えませんでした。
ところがある日、その会社の社員の「昔はパソコンもなくて全部手作業だったから、今は便利な時代ですよね」という言葉で、私の謎がパッと解けたのです。
つまりパソコンがない時代は、リスト自体が今のようにエクセルで作成したものでも、会計ソフトから印刷されたものでもありません。全て手書きであったため、それによる書き損じがあるかもしれないうえに、エクセルでソートをかけて簡単に照合するといった方法もなかったために、読み合わせでチェックをしていたのだ、ということに気がつきました。思い返してみると、自分も新入社員のときにはそうしていたことを思い出しました。そのやり方を変えるきっかけがないまま、数10年、同じ形のチェック作業が残っていたというわけです。
今は便利なチェック方法があるのにそれに気づかないまま、というより、わかっていてもなんとなくいつもそうしているから、という認識で変えずにいる作業。あるいは、今までのやり方を許可なく勝手に変更してはいけない、という思い込みで昔ながらの作業をしていることも少なくないようです。
さらには、変えることによってミスが生じるのが怖いから今の方法のままでいい、という考え方があるかもしれません。しかし時代が進化しているのに、自分たちだけが変わらないとしたら、それだけ時代遅れの経理になってしまいます。便利なツールやソフトはどんどん使い、新しいアイデアもどんどん採用して業務を改善していく。そのような経理部であってほしいと思います。
前田康二郎 著 『スーパー経理部長が実践する50の習慣』(日本経済新聞出版社、2014年)III「『デキる経理』の資質とモラル」から
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。1973年、愛知県名古屋市生まれ。学習院大学経済学部経営学科を卒業後、数社の民間企業で経理・IPO業務を中心とした管理業務、また中国での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、経営コンサルティングや企業の経理社員などへの実務指導、サポート業務などを行っている。
上一页 [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] 尾页