ギリシャの首都アテネは「ほとんどパニック」という状態だった。ソーシャルワーカーのオルガ・チロニさん(45)はお金を銀行に預けておくことは危険だと感じた。ギリシャが欧州単一通貨ユーロの体制から離脱するかもしれないと考え、お金を避難させる場所として貸金庫を探した。「まわりの人たちもみな、同じことをしていた」と証言した。
銀行から出る利用者。ギリシャの金融支援を巡り、同国とEUとの間で交渉が難航している(17日、アテネ)=ロイター
この話は2012年のことだ。いま、ギリシャは再び崖っぷちに立たされている。それでもチロニさんの貯金はまだ銀行に預けられたままだ。ユーロ圏における金融支援の仕組みに異議を唱える急進左派連合のチプラス首相に大きな信頼を寄せているからだ。「(1月の総選挙では)急進左派連合に投票した。交渉をまとめてくれると信じている」と話す。
国民の信頼と巨額の緊急融資を支えに、ギリシャの銀行業界はなんとか持ちこたえている。政治がふたたび動揺し、銀行からの預金引き出しも始まったが、何年にもわたる危機の後で、すでに(危機前の水準の)3分の1を超える預金が流出してしまった。
様々な不安はあるが、12年の最悪期に比べれば、ギリシャの銀行を取り巻く状況はずっとましだ。当時は毎日30億~40億ユーロの預金が銀行から流出し、厳しい資本規制が導入されてもおかしくなかった。
■政治ムードと連動する預金流出
規制当局は1日に2回、預金に関する報告を受けている。このように状況を精査している関係者は、支援策がそのうちにまとまれば、どうにか乗り切れると確信している。だが一部の金融関係者は、政治リスクの高まりを考慮し、ギリシャで「クリーン・マンデー」と呼ばれる休日がある週末に、何か動きがあるのではないかと警戒している。
「仮に資本規制が発動されれば、状況は大きく変わる。かなり悲惨な事態となる。キプロスなんてものじゃない」。ギリシャの拠点で国際業務を担う銀行幹部の1人は、13年に金融支援の一部としてキプロスに課され、いまも続く資本規制を引き合いに出した。
ギリシャの銀行は再び政治の空白に翻弄されている。だが、お金が流出する様子は12年当時と異なる。預金引き出しの規模は政治ムードによって変わり、1日あたり数億ユーロのときもあれば、総選挙前に見られたように10億ユーロを超えることもある。ブリュッセルで開かれていたギリシャ支援を巡る交渉が17日、物別れに終わると、状況は悪化した。