作家の谷崎潤一郎(1886~1965年)が詩人、佐藤春夫(1892~1964年)に宛てた未発表の手紙1通が見つかった。「始て恋愛を知りたる心地す」と人妻への秘めた愛を打ち明けるなど、信頼と友情を示す内容。最初の妻、千代との間の娘、鮎子さん宛ての書簡225通も見つかり、こちらは父親としてのこまやかな愛情が分かる。
神奈川近代文学館(横浜市)で4日から始まった「没後50年 谷崎潤一郎展」で公開された。
226通は鮎子さんの長男、竹田長男さん(68)ら遺族が保管していた。
谷崎は30年、千代と離婚し、千代と佐藤の結婚を通知するあいさつ状を3人の連名で知人に送った「妻譲渡事件」で文壇の話題を独占した。今回発見された佐藤宛ての書簡は33年3月23日の発信。「春琴抄」を執筆していた時期にあたり、当時は2番目の妻、丁未子と結婚していた。翌年に「人妻」だった松子と同居し始め、35年に松子と3度目の結婚をする。
書簡で谷崎は、松子への熱情を記す一方、結婚できたとしても松子の「係累」の生活を支えることに「日暮れて道遠しの感ある」と不安を吐露した。
鮎子さん宛ての225通が出されたのは30年8月4日から58年12月25日にかけて。初孫について「もう立つちやあんよが出来る時分と楽しみに致し居り候」と記した。
谷崎をめぐっては、執筆の試行錯誤を示す創作ノートの内容が2日に明らかになったばかり。〔共同〕