全国の警察が2014年度に裁判員裁判対象事件で試行した全過程の録音・録画(可視化)は、全体の17%にとどまったことが23日、警察庁のまとめ(速報値)で分かった。今国会で刑事関連法制の改正案が成立すれば、取り調べの可視化は3年以内に原則として全過程で義務付けられる。警察は全過程の可視化を前提とした対応が迫られる。
同庁によると、14年度中に殺人などの裁判員裁判対象事件の摘発は3339件。このうち、取り調べの全過程を可視化した事件は575件(17.2%)だった。全体の1%未満だった13年度から大幅に増えた。
都道府県警別では、警視庁が99件で最も多く、神奈川(54件)、埼玉(53件)、愛知(51件)と続いた。大阪は32件、福岡は4件。宮城、福島、滋賀、徳島、高知、長崎の6県警はゼロだった。可視化は試行段階で、捜査現場の裁量に任せられている。
1事件あたりの録音・録画時間は平均14時間2分。14年度の対象事件の容疑者の平均取り調べ時間は約26時間で、録音・録画されたのは全体の5割超にとどまった。取り調べの一部でも可視化されたのは2845件、実施率は85.2%で、13年度より8.5ポイント低下。全国の警察で試行を始めた09年度以来、初めて前年度を下回った。
警察庁幹部は「容疑者の供述が得られにくくなるなど捜査への支障を避けるため、実施しないケースもあった。全過程の録音・録画に向け、質と量を充実させていきたい」としている。
警察と同様に可視化が義務付けられる検察は13年度、裁判員裁判対象事件の74.3%で全過程の可視化を試行しており、警察の取り組みは遅れている。
法制審議会(法相の諮問機関)は14年9月、裁判員裁判対象事件の取り調べの全過程可視化を義務付けることなどを柱とする刑事司法制度の改革案をまとめた。政府は今年3月、刑事関連法制の改正案を閣議決定。今国会で成立すれば、公布後3年以内に裁判員裁判対象事件は全過程可視化が義務付けられる見通し。容疑者やその家族に危害が及ぶ恐れがある場合などは実施しないとの例外規定もある。