22日投開票の大阪府知事・市長のダブル選の告示日を前に「政権との近さ」を競い合う駆け引きが激化している。自民党、大阪維新の会の両陣営が公約に盛り込んだリニア中央新幹線の大阪同時開業などは、国とのパイプが不可欠だからだ。「我々自民のパイプが太いのは当然」「維新こそが実現させる力がある」。“お上頼み”の舌戦は5日の知事選告示後も続きそうだ。
「府民、市民を守るための政策をしっかり前に進めてほしいと言われた」。1日午後、大阪・難波の百貨店前。自民の街宣車には、知事選に出馬予定の栗原貴子府議(53)、市長選に出馬予定の柳本顕元市議(41)に加え中山泰秀衆院議員が並び立ち、菅義偉官房長官から直接激励を受けたことを力説した。
与党議員がわざわざ官邸との近さを有権者に訴えるのは、知事選で再選を目指す大阪維新幹事長の松井一郎府知事(51)が官邸との蜜月ぶりを強調するからだ。
松井氏は10月28日、知事として国への陳情で上京した際、菅氏と会談した。終了後、取り囲んだ記者団に3日後に橋下徹大阪維新代表(大阪市長)とともに立ち上げる国政政党「おおさか維新の会」について菅氏が「国会議員は20人規模になるみたいですね」と関心を示したことを披露した。
松井氏は自民の大阪府議出身で、菅氏とは親交が深く、「官邸とは絶えず連絡を取っており、大阪都構想にも賛同してもらっている」とする。菅氏にとっても橋下、松井両氏らの国政新党と協力すれば野党を分断できるなどの思惑もある。
5月の都構想の住民投票では、国会で安保法制関連法案の議論が本格化する中、菅氏が維新側を支援する発言をし、自民大阪府連にとって苦い経験となった。自民本部のある選対幹部は「このタイミングで松井氏が面会を求めたのは大阪の自民支持層を分断する選挙対策だろう」と警戒する。
松井氏が菅氏と会ったのは、知事選に出馬する栗原氏の公約発表日。自民大阪府連会長を務める中山氏は大阪市議団幹部から「松井氏が菅氏に会うらしい」と聞き、中止を要請するため官邸に駆けつけたものの、既に会談を終えた後だった。
中山氏は街頭演説では「知事に防災対策で会いたいと言われたら官房長官は会うのが当然。選挙前に会うのはパフォーマンス」と“蜜月”の否定に躍起になっている。
さらに中山氏は安倍晋三首相との密接な関係を強調。首相は住民投票で敗れた橋下、松井両氏に菅氏とともに会っているが、中山氏は首相が栗原、柳本両氏にダブル選の推薦状を手渡したことを取り上げ、「野党の協力を得たい考えで官邸と維新は不正常な関係だったが、首相自ら断ち切った」と意義づける。
一方、大阪維新公認で市長選に出馬する吉村洋文元衆院議員(40)は松井氏とともにリニア新幹線の同時開業、副首都化など国政が絡む公約を掲げるだけに政権との近さは重要だ。橋下氏は「自民大阪府連は力がない。我々が国政で力を持つことで政策が実現できる」と訴える。
「地方創生」「地方分権」をうたいながら政権との近さを競い合う両陣営。府民の中には「参勤交代に励む江戸時代の大名みたい」と揶揄(やゆ)する声も出ている。