土砂崩れに巻き込まれた住宅周辺で、行方不明者の捜索を前に打ち合わせをする陸上自衛隊員と警察官=17日午前11時26分、熊本県南阿蘇村の高野台地区、西畑志朗撮影
16日未明の地震による土砂災害が集中した熊本県南阿蘇村で17日、自衛隊などの大規模な捜索が始まった。「無事でいて」――。安否不明になった人の家族らが祈るなか、1人が見つかり、死亡が確認された。アパートの倒壊で亡くなった大学生の友人たちは、突然の死を悼んだ。
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砕け散った木材、泥にまみれた布団、屋根がつぶれた車。熊本県南阿蘇村立野の片島信夫さん(69)宅は、土砂崩れの直撃を受け、押しつぶされた。見つかった片島さんは死亡が確認され、妻の利栄子さん(61)とは連絡が取れなくなった。17日朝の時点で、村が把握していた安否不明者は8人。利栄子さんはその1人だ。
村によると、17日の村内の捜索は自衛隊、警察、消防の計約2400人態勢で行われた。大阪府警の広域緊急援助隊は17日午前9時ごろから、約80人態勢で片島さん宅周辺の捜索を開始。土砂をかきだし、散乱した家財道具を片付けていく。
約9時間後、片島さん宅から約50メートル離れた民家の庭先で、がれきの中から心肺停止状態の人が見つかり、ブルーシートをかけられて担架で警察車両に運ばれた。熊本県警は17日夜、発見されたのは利栄子さんで、死亡が確認されたと発表した。
現場は山の斜面に複数の民家が点在している。山を滑り落ちた土砂で、周りの5軒ほどが被害を受けた。
近くに住む山内博史さん(62)は強い揺れの後に母と妻、娘と外に出たが、4人とも土砂にのみ込まれた。胸まで泥につかり、自力ではい上がった山内さんは、「もうあきらめて逃げて」と言う妻に、「足が切れても引き上げるけん」と声をかけて救い、4人とも逃げ出せた。
17日は地域恒例の花見の日だった。山内さんは「片島さん夫婦も花見を毎年楽しみにしていた。まさか、こんなことになるとは……」と話した。
南阿蘇村河陽の高野台地区では、民家4軒が土砂にのみ込まれた。広い範囲にわたって裏山が崩れ、土砂の高さは2階建ての屋根と同じくらいに達した。
本格的な捜索は17日正午ごろから始まったが、現場近くの道路が土砂で寸断され、重機を運び込めない。自衛隊員らはスコップで土砂を片付けていった。
17日夕、その捜索活動を前田和子さん(61)が見つめていた。夫の友光さん(65)と連絡がとれなくなり、自宅は土砂に埋まった。「元気で出てきてもらいたいけど、この土を見たらね」と涙ぐんだ。近くのゴルフ場で働く友光さんは15年ほど前に村に家を建てた。和子さんはその後、熊本市の家に住み、村の家との間を行き来していたという。
今月14日夜の地震後、友光さんは熊本市の家へ向かった。家の片付けを手伝い、孫にも会って楽しそうに過ごしていたという。ただ、その後、ゴルフ場を気にして、村に戻ったという。和子さんは17日、テレビで高野台地区の土砂崩れの被害を知り、長男の友和さん(36)と駆けつけた。「まじめなおやじでした」と、友和さんは目に涙をためて語った。
温泉宿泊施設の客の男女2人と連絡が取れなくなっている南阿蘇村長野地区。16日未明の激しい揺れで、「ログ山荘火の鳥」は、裏山が幅数十メートルにわたって崩れ、コテージ6棟のうち3棟が土砂で押しつぶされた。17日は午前9時45分すぎから、自衛隊や警察、消防が重機3台で土砂を掘り起こすなど捜索を続けた。
駐車場には宿泊客のものとみられる車がとまっていた。施設を家族で経営する出野由紀子さん(46)によると、14日の地震後、週末の宿泊のキャンセルが相次いだ。しかし、2人は「九州を旅行で回っているから」と予定通り15日に宿泊。この日の宿泊客はこの2人だけだったという。
出野さんは「命だけは、命だけは、助かってほしい。無事に見つかってほしい」と声を詰まらせた。