対局を見守る憲法学者の木村草太さん(後列左から2人目)=23日午後、長野県松本市、角野貴之撮影
第74期将棋名人戦七番勝負第2局は、挑戦者の佐藤天彦八段(28)が羽生善治名人(45)に勝ち、名人戦初勝利を挙げた。名人が詰みを逃して、よもやの逆転負け。対局室で劇的幕切れを目撃した将棋ファンの憲法学者・木村草太さんが、観戦エッセーを寄せた。
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人の心に残る対局を名局と言うなら、この一局は間違いなく名局だ。まさかの幕切れに、私も未(いま)だに心の整理がつかないでいる。
1日目、先手の佐藤八段が選んだのは「矢倉」だった。玉を守る堅牢な城を築く戦い方だ。控室では、「松本城の見学で思いついたのでは」と声が上がる。終局後、佐藤八段に確認すると、笑いながら「違います」。思い付きで戦法を選べるほど、将棋は甘くない。
2日目に入り、局面は一気に緊迫していった。名人の玉は薄く、一つ間違えれば一気に潰される。挑戦者も駒損で、攻めをつなぐのは容易ではない。両対局者ともに、2日目は終始苦しかったと振り返った。