作品D「晴れやかな顔、花咲く」の制作者の藤井智恵さん=いずれも東京都港区、池永牧子撮影
■作品D 藤井智恵さん(49)
あの「おもてなし」が出発点 選ばれなかったエンブレム
浅草で着想、自由な筆運びに 選ばれなかったエンブレム
エンブレム問題まとめ読み
昨夏、新国立競技場の建設計画見直しが話題になったころ、競技場を朝顔のグリーンカーテンで囲めば涼しさを演出できるのに、と考えていた。新エンブレムの募集を聞いて、「自分が応募できる立場になるとは思ってもいなかった。出さなければ絶対に後悔すると、アスリートがメダルを目指す気持ちで参加した」。
近所で咲いていた朝顔がモチーフ。パッケージデザインの仕事の合間や寝る前に書きためたラフスケッチは100枚以上。長野冬季五輪には観戦に出かけたほどの五輪ファンで、「選手が力を出し切った時は晴れやかな気持ちになる。それを見た人も、すがすがしくなるのがスポーツの力」という。選手とスタッフとファンが一体となる祭典だから、朝顔の花びらに「人」という字を忍ばせた。それが全部、つながっているように仕掛けた。審査では5票を集めた。
短大の国文科を卒業後、もの作りに携わりたくて、広告会社でアシスタントをしながら、夜間の専門学校でデザインを学んだ。その後、31歳で独立し、個人事務所で活動してきた。作品を提出したのは締め切りのわずか数分前。「締め切りとの格闘がいちばんドラマチックだった。落選したけど、デザインが好きだと再確認できた。やってきたことは間違いじゃなかった。すごく楽しい時間だった」(能田英二)