福岡地裁小倉支部で開かれていた殺人未遂事件の裁判員裁判で、被告の指定暴力団工藤会系組幹部(40)の知人とみられる男が5月中旬、複数の裁判員に閉廷後、「よろしく」などと声をかけていたことが関係者らへの取材で分かった。同支部は「評議に影響を与える恐れがある」として予定していた判決期日を取り消した。
裁判員法は、裁判員や補充裁判員の職務に関し、依頼をしたり面会や電話などで威迫したりする行為に、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処すとの罰則を設けているが、これまでに適用された例はないとみられる。
被告の男は、日本刀を知人男性に突き刺し殺害しようとしたとして逮捕、起訴された。福岡地裁小倉支部は4月28日、補充裁判員2人を含む計8人を裁判員に選任。5月10日に初公判が開かれ、被告は刺したことは認めたが殺意を否認。12日に検察側が懲役8年を求刑して結審した。判決は16日に言い渡される予定だった。
関係者によると、知人とみられる男は北九州市小倉北区の同支部付近で、審理を終えて退出した複数の裁判員に、「よろしく」という趣旨の言葉をかけたという。裁判員が同支部に報告して、同支部が把握したとみられる。同支部は13日、判決期日を取り消す決定をした。
工藤会は2012年12月、全国で唯一の特定危険指定暴力団に指定された。裁判員法は、裁判員やその親族らに危害が加えられる恐れがある場合は、裁判官だけで審理できると定めている。これまで同会系組員らの刑事裁判をめぐっては、裁判所が「裁判員らの生命や財産に危害を加えるおそれがある」などとして、裁判員裁判から除外される例が5件あった。今回の事件では「組織性が薄い」として、除外対象にしていなかった。
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〈裁判員制度〉 2004年に成立した「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)に基づき、09年に始まった。殺人や強盗致死傷、危険運転致死などの重大な事件の裁判が対象で、国民から選ばれた裁判員6人が裁判官3人と合議して審理にあたる。裁判員法は、裁判員や補充裁判員への請託や威迫(脅迫)行為を禁じており、違反した場合は2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処す、としている。