俳優の渡辺謙=山本和生撮影
渡辺謙の活躍が止まらない。米トニー賞で昨年話題になったブロードウェーミュージカル「王様と私」の王役を今春再演したかと思えば、生死や親子の情を描いた映画に出演する。56歳。俳優としての深化も進む。
「王様と私」は、ブロードウェーどころか、ミュージカル初挑戦の作品だった。そこで得たのは演じることの根本姿勢だった。「これは『本当なの?』という疑念の中でやっている感じでした。日本でも『本当なの?』という疑問を持ちながら演じるべきで、原点回帰になりました」と話す。
3、4月、ニューヨークで再演し、手応えを感じた。「再演は俳優にとって熟成するということ。熟成の良さも実感した」。こだわったのは「近代化と伝統を守ることへの王の葛藤」という。「昨年は、葛藤を肌感覚で表現しようというほど練れていなかった。今年は表現が深まったという気がします」
映画でも存在が目立つ。4月末公開のガス・バン・サント監督「追憶の森」は、青木ケ原の樹海をモチーフに生と死を巡る物語。渡辺演じるタクミは日本的な死生観をまとうミステリアスな役柄だ。「答えは一つじゃなく、受け止めてくれたお客様の心に入った時が一つの答え。答えを強要しないような表現になるといいなと思ってやっていました」