マウンドに集まった松本主将(左)ら聖光学院の選手たち=17日、阪神甲子園球場、金居達朗撮影
(17日、高校野球 聖光学院5―2東邦)
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聖光学院(福島)の夏の甲子園10年連続出場は戦後最長記録。だが、主将の松本康希君(3年)にとってはこの上ない重圧だった。
「どうしようもないな。このチーム」。福島大会直前の練習試合で負けた後、斎藤智也監督が言った。負けを気にしていない選手たちもいた。責任を感じた松本君は号泣。斎藤監督は選手を集め、松本君を指さした。「こいつの顔を見ろ。おまえたちは気持ちを共有できているのか」
選手を精神面で鍛えるため、主将を短期間で次々と代えるのが斎藤監督のやり方。レギュラー以外が主将になることも多い。自分の調子が悪いと他の選手に厳しく言えなくなるからだ。
だが、斎藤監督は松本君を昨年8月に主将に指名して以来、一度も代えていない。松本君は今春、不動のレギュラーになった。「松本は凡退してもベンチに戻れば他の選手を鼓舞できた」と斎藤監督。
戦力が整わず、負けが続いた。それでもOBたちからは「なんだかんだ言っても勝てるだろ」と甲子園出場が当たり前のようなメールや電話が相次いだ。「自分たちの代だけ甲子園に行けなかったらどうしよう」。寮で独り考え込んだ。
福島大会でも苦戦が続いた。松本君は意を決し、思いを伝えるビデオメッセージを選手たちに送った。「本当は主将をやめたかった。みんなを嫌いになりそうになったこともあった」。多くの選手が泣いた。チームが変わった瞬間だった。決勝では逆転勝ちし、甲子園出場を決めた。
17日の東邦(愛知)戦。五回、自ら三塁打を放ち、勝ち越しのホームを踏んで勝利を引き寄せ、2年ぶりのベスト8進出を決めた。「よくやった」。試合終了後、斎藤監督はねぎらった。「主将としてよく打って守ってくれた」(茶井祐輝)