2003年の鹿児島県議選で公職選挙法違反罪に問われた被告全員の無罪が確定した「志布志事件」をめぐり、起訴されなかった住民が県に損害賠償を求めた訴訟で、住民側は17日、全員への賠償を命じた福岡高裁宮崎支部の控訴審判決を受け入れ、上告しない方針を決めた。県警も16日に上告断念を発表しており、判決が確定する。
住民全員への賠償命じる 志布志事件巡る控訴審判決
無罪になった元被告や起訴されなかった住民らは捜査の違法性を訴えて4件の民事訴訟を起こしたが、いずれも住民側の勝訴で終結することになった。
5日の控訴審判決は、長期間、朝から晩まで続いた県警の取り調べを「社会通念上、相当と認められる限度を明らかに逸脱している」と認定。控訴した6人全員に計595万円を支払うよう県に命じた。
鹿児島市で会見した住民と弁護団は、控訴審判決を受け入れる理由について、取り調べの違法性を全員について認めたこと、志布志事件から13年以上が経過し高齢化した住民の「苦しみからの解放」を挙げた。
ただ、判決については「事件が存在せず、捜査着手段階の嫌疑なき取り調べの違法を認めなかったのは極めて問題」と指摘した。
また、県警に対しては住民に直接謝罪するよう求め、同様の被害者を出さないよう全事件での取り調べの可視化を国に求めた。
一方、県警は16日に上告断念を発表する際、住民に一定の嫌疑があって捜査を始めたことが認められたなどと理由を説明。直接の謝罪については「コメントは控える」と述べた。(斉藤明美、大崎浩義)
◇
〈志布志事件〉 2003年の鹿児島県議選で初当選した県議が、妻らと共謀して同県志布志市で投票依頼のための買収会合を開き、住民との間で計191万円の授受があったとして、県警が15人を公職選挙法違反容疑で逮捕。13人を鹿児島地検が起訴した。鹿児島地裁は07年、12人に無罪を言い渡し(1人は公判中に死亡)、検察は控訴せず無罪が確定した。取り調べの際、家族らの名前を書いた紙を踏ませる「踏み字」、警察が描いた事件の構図通りに強引に容疑を認めさせる「たたき割り」といった捜査手法が問題化した。