ミサイル発射と核実験の主な動き
北朝鮮による核ミサイル攻撃が、現実の脅威となりつつある。5度目の核実験で、軍事能力はどこまで高まったのか。金正恩(キムジョンウン)委員長の思惑はどこにあるのか。南シナ海などの問題で米国や周辺国に余裕のないなか、挑発はエスカレートしている。
北朝鮮は、今回の実験が「核弾頭の威力判定のための核爆発実験」だったと主張。小型化、軽量化して弾道ミサイルに装着できる核弾頭の生産が可能になったとした。根拠となるデータや写真は公開していない。3月9日には、小型化に成功した「核弾頭」を公開し、ミサイル搭載が可能だと主張していた。
航空機による核爆撃に比べ、核弾頭ミサイルは迎撃が難しい。北朝鮮が核搭載型ミサイルを開発する目的は、米本土や在日米軍基地を核の脅威下に置くことだ。韓国は、米国の核の傘で北朝鮮が核兵器を使えないよう牽制(けんせい)するとともに、有事の際に海外からの米兵力の増援を前提にして作戦を立てている。米韓同盟が十分機能しなくなれば、韓国への北朝鮮の軍事的脅威は飛躍的に高まる。
米東海岸も射程に収める長距離弾道ミサイル・テポドン2改良型は重さ1トン以下、日本の大半を射程に収める中距離・ノドンは700キロ以下で搭載が可能と言われる。
韓国国防省は9日の国会報告で、前回の核実験が、広島や長崎で使われた原爆に比べて大きさを4分の1程度にできるブースト型核分裂爆弾(強化原爆)だったと推定していると明らかにした。北朝鮮が既に小型化と軽量化を相当進展させていた可能性を示唆した。
核搭載型ミサイルの実戦配備には、どれほどの現実味があるのか。
韓国政府によれば、北朝鮮は1千発以上の弾道ミサイルを保有。うち85%が韓国に脅威となる短距離のスカッドなどだが、約200発を保有するノドンは日本と在日米軍を、6月に試射に成功し、約40発を保有する中距離のムスダン(射程3千キロ以上)は米領グアムをそれぞれ攻撃するために開発されたとみられる。
8月24日には、射程約2千キロで発射の兆候が確認しにくい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試射にも成功している。搭載する潜水艦の能力は不完全とみられるものの、年内にも実戦配備されるという見方もある。
弾道ミサイルによる攻撃には、大気圏への再突入時に高熱や衝撃、振動などから核弾頭を保護する技術も必要だ。朝鮮労働党機関紙の労働新聞(電子版)は3月15日付で、金正恩(キムジョンウン)委員長が弾道ミサイルの大気圏突入実験を指導したと実験の写真付きで報道。「実験は成功した」と主張した。
韓国は写真などから、北朝鮮の大気圏突入実験の温度が1600度程度だったと分析。弾道ミサイルの再突入時には7千度前後の高温や強い振動が伴うため、まだ北朝鮮が再突入技術を持っていないとしている。
また、軍事関係筋は「米ソが冷戦期に開発した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の命中精度は誤差10~30メートルで、地下サイロからいつでも発射が可能。核爆弾の爆発可能性は100%だ。北朝鮮がその水準に達するには10年単位の長い期間が必要だ」と語る。
しかし、北朝鮮にはそれほど高性能なICBMは必要ない。韓国軍元将校は「米国が核による報復攻撃をためらい、核の傘が無力化されれば、北はそれで目標を達成する」と語る。
短距離・スカッドは、ICBMに比べて飛行高度が低い上、北朝鮮が1980年代にエジプトから実物を入手しており、信頼性は高い。パキスタンも1998年、5回の核実験で核兵器を実戦配備。インドを射程に収めるミサイルへの搭載技術も持つとされる。軍事関係筋は「スーパーコンピューターが発達した現在、パキスタン程度の技術はあるはずだ」と語る。
北朝鮮は5日、ノドン3発をほぼ同時に発射し、すべて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させた。再突入後、100%核弾頭が爆発する確証はないが、核物質を載せた弾頭を着弾させる技術はありそうだ。核弾頭を爆発させられなくても、放射性物質を含んだ「ダーティーボム(汚い爆弾)」として実戦での脅威になる。