金融庁は、北朝鮮と日本の企業などによる合弁会社10社が、北朝鮮への不正な送金などに関わった疑いがあるとして、国内の全ての銀行と信用金庫、信用組合に対し、この10社との取引の有無を報告するよう命じた。北朝鮮への国際的な経済制裁の抜け道に日本の金融機関が使われていないか、調査を急ぐ。
複数の関係者によると、10社は北朝鮮と日本の企業や団体の合弁会社として設立され、平壌などに所在。それぞれ音響装置やピアノ、ステンレス鋼管などを扱ったり、朝鮮労働党のエネルギー政策の実施を担ったりしているという。
金融庁は大手銀行や地域金融機関に対し、10社のリストを提示。10社の口座の有無を調べ、見つかった場合は一定期間の取引記録を提出するよう求めた。
金融庁の要求は、強制力がある「報告徴求命令」で、各金融機関はすでに同庁に回答したとみられる。取引が見つかった場合、金融庁は立ち入り検査に入り、行政処分を科す可能性がある。
北朝鮮に対する日本独自の経済制裁は、北朝鮮への送金を原則禁止している。核・ミサイル開発への資金流出を防ぐためだ。問題の合弁10社が制裁の枠組みに違反し、送金やマネーロンダリング(資金洗浄)に関わっている疑いがある、との情報が日本の国連代表部から伝わり、金融庁は調査に踏み切った。
北朝鮮への送金について金融機関がチェックできていなかった場合、政権が拉致問題などを背景にとってきた制裁の実効性が問われかねない。
日本の金融機関はもともと、国際的に「資金洗浄対策が遅れ気味だ」と指摘されてきた。来年には国際機関による日本の対策の審査も予定されており、金融庁は国内金融機関の対策が十分かどうかに神経をとがらせている。(榊原謙)