従業員は育休を十分にとっていますか?
男女を問わず、育児休業を取るのは当たり前。そんな世の中になっているでしょうか。シリーズ「われら中小企業」のアンケートでは、経営者50人のうち20人が「従業員は育休を十分に取っていると思う」と答えました。男性も含めて、どうしたら育休の取得は広がるのか。復帰した後のサポートは。限られた人数で仕事をこなしながら、さまざまな工夫を考えているようです。
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■〈Yes〉 クリーニング業「喜久屋」社長・中畠信一さん(53)
埼玉にあるクリーニング工場の2階には、休憩室を兼ねたキッズルームがあります。子どもたちの面倒は、同じフロアの事務職員がみます。園児と小学校低学年の子が多いですが、最近はお孫さんを連れてくる人もいますね。
お客さんからの電話を取っていて子どもたちの声が先方に聞こえてしまったと思うときは、「うちの会社は子育て支援に力を入れていますので」と説明するようにしています。
男性の育児休業の取得はまだありませんが、近々、ベトナム人の女性社員が取る予定です。休み期間や復帰後の働き方などは、個人の希望をできるだけ聞いています。働き続けてもらうためには当然のことです。
創業60年になりますが、先代の父がいち早く女性の力に目を向けました。1960年代後半、職人技で力仕事ゆえ男の世界だったアイロン作業を、メーカーと機械を開発して、女性でもできるように変えました。
私の代では衣服の保管サービスを始めて、季節や曜日により大きく変わっていた仕事量を平準化させ、仕事の見通しが立つようにしました。運動会が集中する週末の仕事も、前倒しでできます。また、いつでも交代しあえることを前提に、技術を身につけてもらっています。
中小企業の強みは、「思い」で経営できること。地域で子育てができないのなら、会社がやればいい。いまも子連れ出勤はOKですが、いずれは保育所を敷地内に作りたい。近隣の子どもたちも通える開かれた保育所にしますよ。(本社・東京都足立区、従業員約200人)
〈Yes〉 女性ばかりの会社で、育休の取得は当たり前だ。職場に復帰した後もしっかりと働いてもらうため、仕事ぶりを時間ではなく成果で判断している。残業を減らし、有給休暇の消化を奨励するほか、社内イベントには家族を招いている。(50代・サービス業)
〈Yes〉 すべての従業員が等しく利用できるしくみとして、育休制度がある。利用して職場に復帰したら「結果で会社に還元する」という意識を従業員が持つことも、大切だと思う。それによって、育休制度の取得が広がり、定着するのではないか。(50代・サービス業)
〈Yes〉 従業員には産休も育休もきちんと取ってもらい、復職してもらっている。復帰した後、幼稚園や保育園で子どもを預かってもらえない日は、会社に連れてくることを認めている。事務所で、子どもたちは仕事の邪魔にならないよう遊んでいる。(40代・製造業)
〈Yes〉 育休を取りやすい雰囲気づくりに力を入れている。また、社員が休んでいる間、しっかりカバーできるように、少し社員数に余裕をもたせている。その結果、男性従業員も育休を取った。まだ1人で、期間は2カ月だけれど。(50代・サービス業)
〈どちらともいえない〉 育休は女性は取っているが、男性はまだ取得していない。子育て中でも働けるように、自宅と取引先など仕事をする場所との直行直帰を認めている。在宅勤務ができる仕事を増やし、企業内託児所をつくりたい。(40代・サービス業)
■〈No〉 製缶・板金加工「山田製作所」社長・山田茂さん(53)
女性の社員は、生産現場にいる20歳と、経理で働く妻だけ。あとは男性です。就業規則の中に育休は盛り込まれていますが、男性たちはこれまで、子どものことは有給休暇で対応してきました。いますぐにでも、「育休を取りたい」いう社員がでてくれば、うれしいですわ。
正直、葛藤もあります。中小企業の経営って、ぎりぎりの社員数でやっています。なので、育休でひとりでも長く抜けられてしまうと、きつい。その間、あらたな人材を正社員として採用するしか、道はありません。でも、休んでいた社員が戻ってきたら、その採用した人はどうなるん、いうことです。
派遣を頼めばいいじゃないか、ですって? ダメです。同じ職場で働く人は、みんな肩を組み合う仲間でなくてはあきません。それが、中小零細企業、町工場だと思うんです。
でも、この葛藤は克服しなければなりません。育休を取ってもらう環境を整えることは、もう避けて通れなくなりました。すごい人手不足の時代ですので、求職者から求められる会社にならないと、アカンのです。いまいる社員も、ぜったい辞めさせたらアカンのです。
いままでは、正直、きびしい経営の中で会社の業績アップが最優先で、労働環境は後回しにする傾向があったと思います。でも、もういっぺん、社員ととことん話し合って、育休取得もふくめた自分の会社らしい就業規則をつくりたい。片手に不屈の経営計画書、片手に魂の就業規則、ですね。(本社・大阪府大東市、社員16人)
〈No〉 病院への送り迎えや学校行事などに気軽に参加できる半日休む制度は、全員が利用している。女性社員は全員、1年間の育休を取り、戻ってくれている。だが、「育児は女性がするもの」という意識が強いのか、男性社員の育休取得はゼロだ。(40代・製造業)
〈No〉 育休から復帰しようとした女性従業員が、仕事のやり方が変わって対応できないからと、退社してしまった。地域の経営者仲間たちと共同で託児所を運営しているが、保育士が足りず、遅い時間帯まで子どもを預かることができていない。(50代・サービス業)
〈No〉 育休で休んだ従業員が職場復帰に向けて、保育園探しに苦労している。制度としては利用してもらっているけれど、保育の問題を解決しないと「Yes」と胸を張れない。いま、社内に保育所をつくる検討を進めている。(50代・サービス業)
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ご協力いただいた50社(順不同)【北海道】武部建設、岩見沢液化ガス【東北】高田自動車学校、八木澤商店、オクト、蔵ホテル一関、シェルター、八葉水産、東穀、ヴィ・クルー、キクチ【関東】中里スプリング製作所、日本プラスター、日本電鍍工業、永瀬留十郎工場、プレジール、日本橋梁工業、コビーアンドアソシエイツ、吉村、石坂産業、アイシービー、喜久屋、セリエコーポレーション、アトム精密、エイアンドピープル、ミナロ、アフロディーテ、ウェルネスダイニング、一友ビルドテック、ユウマペイント、サンパワー、ジー・ブーン【中部】給材、ネコリパブリック、キタガワ工芸【近畿】ロマンライフ、山田製作所、中野BC、新日本テック、進和建設工業、カワキタ、梅南鋼材、三協製作所、成田塗装、日本グリーンパックス【中国、九州】エブリイ、ヒューマンライフ、お掃除でつくるやさしい未来、プレースホーム、ツシマ
■会社で面倒みるという発想の企業、数多く
驚いたのは、会社のなかで子どもを預かろうと考える企業の多さです。3社が実施、14社が将来的に実現したいと答えました。簡単な預かりから、保育所や学童保育を含むものまで。想定する形は違うものの、会社で面倒をみようという発想です。けれどもこれは、行政や地域からの支援が期待できないことの裏返し。忘れられないのは、「子どもからも支持される会社になりたい」という回答です。すべての日本の会社に、共通する課題だからです。(北郷美由紀)
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◆編集委員・中島隆と北郷が担当しました。