鴻海にノートブックパソコンの製造を委託したコヴィアの山本直行執行役員(左)=東京都千代田区、早坂元興撮影
シャープを買収した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業。米アップルからiPhoneなどの製造を請け負う世界最大の電子機器受託製造(EMS)として、日本のメーカーも深くかかわってきました。どれだけ技術が進んでも、ものづくりを支える「黒衣」でいようと貪欲(どんよく)な投資を続けている企業です。日本の小さなベンチャー企業にも秋波をおくっています。
タッチパネルを本体から外してタブレット端末としても使える――。そんなパソコンが8月、2万9800円(税込み)の格安で販売された。横浜市のベンチャー企業、「コヴィア」が自社ホームページとネット通販アマゾンを通じて販売中だ。日本の大手企業製なら10万円以上はする。
コヴィアは、大手電機メーカーから部品設計を受託し、パソコン周辺機器も作ってきた社員45人の会社。それがパソコンメーカーになれたのは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とタッグを組んだからだ。鴻海は米アップルからiPhone製造を請け負う電子機器受託製造(EMS)最大手で、8月にシャープを買収した。
コヴィアと鴻海の接触は今年1月。米マイクロソフトが中国・深圳で開いた展示会だった。「新しいパソコンをつくりたい」。コヴィア社員が、隣にたまたま居合わせた鴻海幹部に話を向けると、「だったら、一緒にやりましょう」。
4月、コヴィアがパソコンの仕様を伝えると、すぐに試作品が送られてきた。鴻海の製造ノウハウを生かし、別の企業向けに生産したモデルがたたき台。キーボードやソフトを日本向けに換え、5月末には規格が固まって鴻海の深圳工場で作ることになった。
商品箱には鴻海の英語名で「Powered by Foxconn(フォックスコン)」と明記。コヴィアにとって、その方が商品価値を高めると考えたからだ。同社の山本直行執行役員(42)は「アップルが認めた鴻海と組めたことで、大手メーカーと張り合える」。
イオンが2014年7月に発売した格安スマートフォンも鴻海が製造を請け負った。納入したのは電子部品やルーターなどを作る「ジェネシスホールディングス」(東京都千代田区)。
14年の年明け、イオンからスマホ発注を打診された。当時はスマホを作った経験が乏しく、良い製品を大量に作る自信はなかった。鴻海の郭台銘会長(65)を知る知人に相談すると、「直談判すれば受けてくれる可能性がある」。
同年2月、「挑戦したいので協力してほしい」と思いをつづったファクスを鴻海の会長室に送った。すぐに鴻海幹部から電話があり、広東省郊外の工場を確保してくれた。
コンペには十数社が参加したが、イオンは3月、ジェネシスと鴻海が手がけた機種を採用した。商品紹介には「トップクラスの製造レベルを持つ工場で生産」と書いた。ジェネシスの藤岡淳一社長(39)は「イオンで売るスマホを作ったことで知名度があがった。商売が増えた」と喜ぶ。
鴻海はアップルのような大企業から製造を請け負い成長を遂げてきた。その一方、やる気があり、将来性のある中小企業とも手を組む一面も持ち合わせる。